他のドラマがかすみまくり! 「虎に翼」はナゼこんなに面白いのか 違いは素晴らしすぎる「キャラ造形」にあった

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 主人公と語りがあうんの呼吸で一体化。伊藤沙莉が微細な表情の変化と機敏な動きで魅せ、彼女が口に出さない部分を語りの尾野真千子が情緒たっぷりに紡ぐ。奥行きのあるキャラクターに、的を射た表現や胸のすく展開が秀逸な「虎に翼」。女が主語を持つことの難しさをあらゆる方向から描きながら、日本国憲法第14条の尊さを改めてかみしめさせる、稀有(けう)な朝ドラだ。男女不平等で理不尽かつ多難な時代に生まれたヒロイン・猪爪寅子が、価値観や世間体の壁に何度もぶつかりながら、法の下の平等を求めて闘う。闘うというか、自問自答も繰り返し、答えを探していくといったところか。

 あまりに面白いので、他のドラマがかすみまくり。寅子同様にお言葉を返したり、主語の奪還に奮闘するヒロインもいたが、格が違った……なんて、すぐに比べて誰かをけなしたがる私の悪い癖も、公平な寅子に「はて?」とつっこまれて怒られそうだ。物語も後半に突入、ここらで一度まとめておこう。トラツバの妙を。

 その前に、ざっくりあらすじ。昔から自信過剰で負けず嫌い、ひと言多いと言われてきた寅子。「女の幸せは結婚」と決めつけられていることに疑問と違和感を覚えていた。そんな折に法学者の穂高(小林薫)と出会い、明律大学女子部に誘われる。死ぬほど努力をして日本初の婦人弁護士となるも、男社会の法曹界でいくつもの壁が立ちはだかる。精神的なプレッシャーと不調が重なり、一度は法曹界を去ることに。愛情を注いでくれた父(岡部たかし)や最愛の夫(仲野太賀)も亡くし、喪失感と不安で立ち往生。母(石田ゆり子)や、友達で義姉の花江(森田望智)の支えで一念発起。おりしも昭和21年、個人の尊重や法の下の平等を謳う日本国憲法が公布され、感銘を受けた寅子は自分の進むべき道を再認識。法曹界に復帰して、裁判官を目指す。ここまでが50話、約半分だ。

 私が朝ドラに求める、主な3要素「主語は自分」「辛酸&精神的責め苦」「女の連帯」がこの段階で既にそろっている。さらに、親との確執・悲恋・胸糞悪い性差別・なにくそ根性・弱くてダメな大人なども完備。寅子の口癖「はて?」と、自己主張せず愛想笑いでやり過ごす「スンッ」は、「名ゼリフ」という要素も満たしている。

 とにかく寅子のユーモアに満ちた賢さが気持ちいい。多いとされるひと言も、常に的を射ている。豊富な語彙で理路整然と主張する姿は実に頼もしい。的外れな意見や、よくある論点ずらしにも容赦なく指摘&反論。ひと言多い女に冷笑を浴びせる男や眉をひそめる女はいるが、寅子ならそんな輩を論破して猛省を促せるだろうなぁと妄想すら楽しめる。

 寡黙かつ辛辣だが、先達として敬える桂場(松山ケンイチ)、寅子とはかんかんがくがくの間柄で、怒りが原動力のよね(土居志央梨)、人として信用できる轟(戸塚純貴)も非常に魅力的な人物だ。寅子は今後も彼らと司法の在り方や女性の意識改革を模索していくはずだ。「スンッ」と濁してきた人が「はて?」と疑問や主張を口にできる社会を目指して。

吉田 潮(よしだ・うしお)
テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビドラマはほぼすべて視聴している。

週刊新潮 2024年6月27日号掲載

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