よこはま動物園のマレーバクが台湾への移送中に死亡 病理解剖で明らかになった死因で波紋が広がる理由
よこはま動物園ズーラシアのマレーバク「ひでお」が台湾への移送中に死亡した。日台が大きな衝撃を受ける中、24日には推定死因が「ヒートストローク」と発表され、さらなる波紋が広がっている。
【写真を見る】母親のロコと並んでぐっすり眠るひでお、検疫中の元気な姿も
出発の際は異常なし
奇蹄目バク科に分類されるマレーバクは、現存する4種のうちアジアに生息する唯一の種だ。後ろ半分は白、それ以外は黒という体の色や、上唇と一緒に伸びた鼻といった愛らしい外見ながら、国際自然保護連合(IUCN)のレッドリストでは「絶滅危惧種」に指定されている。
ひでおは2年前の1月12日、よこはま動物園で17年ぶりに誕生したマレーバク。園内の人気者だったが、個体交換で台湾への移送が決定した。繁殖と遺伝的多様性の維持などが目的で、先には今年3月、台北市動物園から東山動物園(愛知県名古屋市)に3歳のオス「獏豆(モドゥ)」が移されている。
ひでおの出発準備が始まったのは昨年末頃。所有権が東山動植物園(愛知県名古屋市)と台北市動物園に移され、今年5月には動物病院で移送前の検疫に入った。輸送箱に入る練習などを繰り返して検疫を終え、病院を出発したのは今年6月21日午前。その際に異常はなかったが、成田発の日本航空(JAL)便で台湾の桃園国際空港に到着した同日夜、死亡が確認された。
台北市動物園の発表によると、ひでおが乗ったJAL機の到着は同日午後8時30分頃。午後9時25分頃、同園の職員が保管所で輸送箱を確認すると床上に血痕が見つかり、中で倒れていたひでおは息をしていなかった。保管所では救急処置ができないため、税関職員らの協力で緊急の通関手続きを行い空港から出発。0時近くに同園の検疫センターで輸送箱を開いたが、すでに死後硬直が始まっていたという。
深部体温は41度
夜が明けて22日、日台のメディアが続々とひでおの死を報じた。悲しみの声が上がるなか、23日朝には台湾大学の専門家が病理解剖を実施。そして24日には台北市動物園が会見を開き、「ヒートストロークによる全身の循環不全、血液の凝固障害、肺水腫」という推定死因と、ひでおの深部体温が41度に達していたことを明らかにした。
会見後によこはま動物園が発表した「お知らせ」には、「ヒートストローク:高温・高湿の環境下などで体温の放散が妨げられたとき等に起こる高熱障害(熱射病)」との注釈が添えられた。一方で会見では、台北市動物園の曹先紹(エリック・ツァオ)博士が、緊張により体温が上昇するためだと説明。輸送の季節と絶対的な関係はなく、比較的臆病な性質のマレーバクが移送中の騒音や衝撃にストレスを受けた可能性が考えられるとした。
会見ではまた、ひでおの頭部に広範囲の擦り傷、四肢とひづめに重い傷、全身に複数の出血や皮下出血が確認されたことも明らかにされた。成田から桃園までの3時間45分、移送箱の中で激しくもがいていた可能があるようだ。
加えて、前例に基づき主に日本側が移送を手配した事実と、JALからの回答にも言及。JALによると、ひでおが出発した時の成田空港は気温20度~21度、移送状況に異常はなく、機内の気温は26度前後だった。また、死骸は解剖優先のため標本にできず、骨の保存には検討が必要だという。
[1/2ページ]