阪神・岡田彰布、逆転満塁弾で“天覧試合”の雪辱を果たす…30年越しのリベンジに成功した“劇的G倒弾”

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「満塁になれば、オレの出番や」

 この回、阪神は先頭の八木裕が「四球でもエラーでも出たい」と執念の中前安打を放って出塁。金森永時中飛、田尾安志三邪飛と代打攻勢が実らず、2死となったが、この日プロ初先発で1番に抜擢された19歳・亀山努が「和田(豊)さんにつなぐことだけを考えて必死だった。ガリクソンはその前の3打席(いずれも内野ゴロで凡退)、初球カーブで入ってきたので、カーブだけを待っていた」と狙い打ちの中前安打を放ち、チャンスを広げる。

 さらに2番・和田も右前安打で続いたが、河野旭輝三塁コーチは二塁走者・八木の本塁突入を押しとどめた。仮に本塁セーフでもまだ2点差。満塁という状況をつくり、ガリクソンにプレッシャーをかけるほうがベターという判断からだった。

 そして、2死満塁で、3番・岡田彰布が打席に入った。

 この日の岡田は6回1死二、三塁のピンチで井上の三ゴロを処理し、三塁走者・篠塚を本塁で刺した際に、左足のスパイクで右くるぶし内側に約10センチの裂傷を負うアクシデントに見舞われたが、「そんなことより、(この試合は)オレが何とかしたる」の気持ちを持ちつづけていた。

「みんながつないでくれたしね。8回になって、“満塁になれば、オレの出番や”と、気合を初めから入れていた。ガリクソンのことだし、強気にストレートで押してくると思っていた。おまけに満塁になってから、セットポジションで投げるのをやめたから、相当球威は衰えていると思っていたね」

「今日やったんか。そりゃ、うれしいな」

 ガリクソンの初球は外角低めへのボール。2球目、捕手・山倉は一発を警戒し、外角低めを要求したが、「ストライクが欲しい」の気持ちが力みにつながり、内角高めに甘く入っていく。

「待ってました!」とばかりに岡田のバットが一閃し、高い放物線を描いた打球は、起死回生の逆転満塁本塁打となって、左翼ポール際に突き刺さった。

30年前のミスタージャイアンツのサヨナラ弾を、3点差の8回裏の逆転満塁弾でやり返したミスタータイガースは「ボールだったかも。でも、そんなもん関係ない。一発狙いのために内角に絞っていたんや。詰まっていた分、ホームランになると思った。ジャストミートなら、強い風でファウルに流されていたかも。でも、こんなにうまくいくとは思わんかったよ」と会心の笑顔で振り返った。

 そして1点リードの最終回、抑えの住友一哉が2死一塁で、篠塚に左翼ラッキーゾーン近くへあわや逆転2ランという大飛球を打たれ、ヒヤリとさせられたが、フェンス一杯で中野のグラブに入り、30年前と同じ5-4でゲームセット。

「(6月25日)今日やったんか。そりゃ、うれしいな」。30年越しの雪辱を誰よりも喜んだのは、天覧試合で長嶋にサヨナラ本塁打を打たれたことが「野球人生の原点」となり、「あれはファウル」と言いつづけてきた村山監督だった。

 一方、期せずして30年前のリベンジをはたされた藤田監督は「もったいない。最後まで何が起こるかわからないんだよ。(6回の加点機に無得点)取れるところで取っておかないと、こういうこともある」と“負けに不思議の負けなし”を噛みしめていた。

久保田龍雄(くぼた・たつお)
1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。

デイリー新潮編集部

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