【叡王戦第5局】敗れた藤井聡太は「チェスクロックでの時間の使い方に課題」早指しに少し狂いが出たか
全タイトル独占期間「254日」のすごさ
昨年10月に王座を奪取して達成した藤井の全タイトル(八冠)独占期間は、七冠を独占した羽生善治九段(53)の167日を抜き254日だった。全タイトル独占期間の最長記録は大山康晴十五世名人(1923~1992)の1378日。ただし、当時はタイトル数も4と少ない(途中から5)。升田幸三実力制4代名人(1918~1991)が全タイトルを独占したのは262日だったが、当時は名人など三冠で全冠だった。
タイトル自体が少なければ独占期間は長くなる。藤井と羽生を比べるならまだしも大山や升田と比べるのは不適当だろう。
ちなみに、大山は中原誠十六世名人(76)ら強豪の登場により「五冠独占」を崩された後、3度も「独占復帰」を果たしている。すさまじい強さと言うしかない。さあ、藤井はどうだろうか。
独占を崩されたことを記者に訊かれた藤井は苦笑して「時間の問題と思っていたので、あまり気にせずにこれからも頑張りたい」と悔しさを押し殺した。藤井は「最年少記録」などと周囲が騒ぐ中も記録をまったく意識せず、常に目前の一局だけに全力投球してきた。レスリングで五輪3連覇した吉田沙保里(41)はかつて、連勝記録が止まった敗戦で大泣きした時、記録ではなく相手に負けたことを悔しがっていた。「真の強者」に共通する要因だ。
感想戦ではすがすがしい表情
五番勝負を振り返った藤井は「終盤でミスが出てしまう将棋が多かった。結果もやむを得ない」と話し、「伊藤さんの力を感じることが多かった」と相手を心から称賛した。
2012年、全国小学生将棋大会の準決勝で伊藤と藤井は対戦。敗れた藤井が号泣したエピソードにより、伊藤は「藤井を泣かせた男」と呼ばれることもある。
今回、局後の感想戦では負けた藤井から言葉をかけた。「ああ、そうでしたか」「それは気づかなかった」などと、せわしく駒を動かしながら検討し合う両雄の表情はすがすがしかった。
藤井は7月1日、愛知県名古屋市の亀岳林万松寺で、初の永世称号がかかる棋聖戦五番勝負の第3局に挑み、山崎隆之八段(43)と対戦する。
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