根尾昂、藤原恭大、吉田輝星…「甲子園100回大会」のスターはなぜプロで苦戦? アマ時代から知るスカウトは現状をどう見ているのか

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スカウトが見極めづらい“マイナス材料”

 続いて、藤原もレギュラーへの定着を果たすことができていない。5年目の昨シーズンは初めて100試合以上に出場し、78安打を放つなど、ようやく開花を予感させた。だが、今年はオープン戦で自打球を受けて右膝蓋骨を骨折。交流戦を終えた今でも、一軍に復帰できていない。

 レギュラーを掴みかけたらと思ったら、故障に見舞われる。これを何度も繰り返して、なかなかパフォーマンスが安定しない。スカウト陣も藤原が停滞する姿を予想できなかったという。

「藤原は、足が速くて肩も強い。打撃は少し粗さがありましたけど、飛ばす力もあってセンター中心に打てるので、早くからプロでもレギュラーになれると思っていました。プロ入り後のプレーを見ていると、怪我の影響もあるかと思いますが、調子の波が大きいですよね。体に疲れが出てくると、スイングがどうしても弱くなる。単純な言葉で言えば、“体力”になると思うのですが、それがなかなかついてこない。怪我が多い原因も、体力のなさが大きいのかもしれませんね……。スカウトが、高校生選手で、こうしたマイナス材料を見極めることは難しい。体力は、プロ入り後に強化していくものでもあります。現在も藤原の練習などをチェックしていますけど、(体力面について)確信を持って大丈夫だとは言えないですね」(前出のスカウト)

 2008年の統一ドラフト(05年に導入された高校生と大学生・社会人の分離ドラフト制度が撤廃され、再統合)以降、最初の入札で1位指名を受けた高校生外野手は、藤原を含めて、吉野創士(2021年楽天)、浅野翔吾(2022年巨人)の3人しかいない。藤原のポテンシャルは折り紙付き。コンディションさえ万全あれば、一軍で活躍できることはすでに証明している。怪我からの復帰を果たして、再びレギュラー争いに加わることができるか。

運命を変えた「最後の夏」の急成長

 最後は吉田。ルーキーイヤーに初先発初勝利をマークするも、その後は結果を残せず、中継ぎに転向した。2022年は51試合に登板したものの、防御率は4.26と安定感を欠き、昨年オフ、黒木優太との交換トレードでオリックスに移籍した。

 今年もここまで21試合に登板して、7ホールドをマークしているが、防御率は5.06と冴えない。ある球団の東北地区担当スカウトは、吉田について、こう分析している。

「吉田はもともと大学に進学する予定だったのですが、高校3年生になり、急激に良くなって、プロ入りに転じたという経緯があります。確かに、最後の夏は、凄いストレートを投げていました。その一方、スピードが上がったことで、コントロールの良さが失われてしまった。高校野球では、相手打者がボール球を振ってくれますけど、プロの打者では、そうはいきません。プロ入り後は、コントロールと変化球を磨く必要があると見ていましたが、それがなかなか向上してこないのが現状ではないでしょうか。(甲子園のスターであるため)どうしても期待が大きい分、じっくり鍛えるのが難しかった。“たら、れば”を言い出したらきりがないですが、大学野球や社会人野球で投手としての総合力を挙げてからプロを目指していれば、また結果は違ったものになっていたかもしれませんね」

 吉田と同じ学年で、オリックスでチームメイトの曽谷龍平(2023年1位)は、高校卒業後、白鴎大で力をつけて、今年は先発ローテーションを担うまでに成長している。どの段階でプロ入りするかという判断は難しく、吉田が大学を経て、プロ入りしていれば、成功したか、それは分からない。しかしながら、「最後の夏」で見せた急成長により、周囲が吉田を見る目や期待が大きく変化したことで、プロで伸び悩む今の姿に影響を与えたことは否定できないだろう。

 根尾、藤原、そして吉田。3人とも年々立場が苦しくなっているとはいえ、ポテンシャルの高さは誰もが認めるところ。少しでも現況から抜け出すような輝きを見せてほしい。

西尾典文(にしお・のりふみ)
野球ライター。愛知県出身。1979年生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行う。ドラフト情報を研究する団体「プロアマ野球研究所(PABBlab)」主任研究員。

デイリー新潮編集部

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