欧州議会選挙 フランスの右翼「国民連合」はなぜ第1党になったのか

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極右のほうが首尾一貫

 無秩序な移民・難民はヨーロッパのためにも出身国のためにもならない。ウクライナ紛争は国際法的にはロシアが悪いが、ロシアの庭先であるウクライナまでNATOやEUに入れたら安定した平和は実現しない。仏独両国は加入に否定的だったはずが、きちんといわないから戦争が起き、経済破綻を招いて極右を扶けた。

 大衆の要求に応えるために右も左もよく似た要求をするが、左派は外国人対策や環境対策でのリベラルな路線を放棄できないから、極右のほうが首尾一貫している。

 EU統合はいまさら後戻り出来ないし、英国のブレグジット(EU離脱)が経済にマイナスだったと見本を見せたので、極右も強く主張しなくなった。

 フランスのRNはルペン父娘の交代のあと、「脱悪魔化」を進めた。娘が父を党から追い出して、その由来を別にすれば、なぜ極右なのかと言いうる党になった。逆にフランスの共和党やドイツのCDUは、左派との対抗上、左に寄りすぎ失敗した。

 日本、英国、米国では国会に議席を持つ極右政党がない。仏独でいう極右は自民党・保守党・共和党のなかにいる。最近は、米国のトランプ大統領は極右的な政策をかなり実施したし、英国では国民投票でEUから脱退した。

 仏独では、保守政党がもう少し極右政党の政策を取り込むとか、組織を切り崩して穏健派を迎え入れるべきだろう。20%や30%の国民を「極右思想の持ち主」と言って体制外に追いやるのは無理がある。

フランス総選挙の行方は

 欧州議会選挙での極右勢力の勝利を見て、マクロン大統領は奇襲で国民議会(下院)を解散した。6月30日と7月7日に総選挙が行われる。

 世論調査では、過半数289に対してRNが250、マクロン与党と左派連合が130ずつくらい。マクロンは、RNが第一党でも単独過半数を取らなかったらバルバラRN党首を首相にするのは拒み、左派連合にも渡さず綱渡りで乗り切るつもりだ。

 穏健な社会党から極左までの左派連合(新人民戦線)が成立したが、政策が極右以上にポピュリスト的積極財政なので経済界も驚いた。マクロンも極右より左派連合を攻撃し始め、過半数を取る政党がなければ非常事態宣言をする噂まで出て、混沌としてきた。

 はたして、7月26日のパリ五輪開会式のときの首相はだれだろうか。

 マリーヌ・ルペンはますます中道化しているし、極右のイタリアのメローニ首相がそこそこうまくやっているのを人々は見ている。たとえ総選挙は切り抜けても、2027年の大統領選挙では今度こそ悪夢が実現する可能性は消えない。

八幡和郎(やわた・かずお)
評論家。1951年滋賀県生まれ。東大法学部卒。通産省に入り、大臣官房情報管理課長、国土庁長官官房参事官などを歴任。徳島文理大学教授。著書に『365日でわかる世界史』『日本人ための英仏独三国志』『世界史が面白くなる首都誕生の謎』など。

デイリー新潮編集部

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