「20年で約1万店の書店が閉店…」 街の本屋さんを国が支えなければならない理由

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政治家としてのロールモデルに

 いつものように八重洲ブックセンターの書棚を見て回っていた時、好んで立ち寄る歴史書のコーナーで見つけたのが山本四郎著『評伝 原敬』でした。

 上下2巻の同書は長く売れ残っていたのか、書棚に刺さっている本を取り出すと、ずいぶんと年季を感じさせました。

「そういえば原敬がいたな」というくらいの気持ちで購入し、なんとなく読み始めたこの本に、私は大きな感銘を受けました。

 平民宰相と呼ばれた原敬の生涯に感動し、「こんなすごい政治家がいたんだ」と思った。それからは原敬に関連する本を集め、繰り返し読みました。『評伝 原敬』は政治の世界に入った時にも読み返しましたし、今でも折に触れてページを開く座右の一冊です。つまり、私は政治家としての自分のロールモデルとなる人物に、書店を通じて出会ったわけです。その八重洲ブックセンターの本店も、今は周辺の再開発で閉店してしまいましたが……。

 書店に行くと、自分で思ってもみない世界に呼び出されることがある。本が呼ぶ、本に呼ばれるという体験が生まれる。そのような「出会い」を創り出してくれる書店の衰退を、単なる一つの産業の衰退と捉えてはならない。これは私自身の個人的な経験ではありますが、たとえできることが限られていたとしても、経産省で書店振興プロジェクトをやりたいと強く思う理由の一つです。

いわゆる「本屋さん」とは違う取り組み

〈書店振興PTは4月、街の書店の関係者から店舗運営をめぐる意見を聞く「車座ヒアリング」を開いた。ヒアリングでは齋藤大臣と経産省の担当者が、複数の書店経営者と意見交換を行った。

 東京都港区の大垣書店麻布台ヒルズ店で行われたこのヒアリングでは、中小企業支援の補助金制度の複雑さ、キャッシュレス決済による手数料が店の利益を圧迫していることなどの声が上がったという。では、PTではこうしたヒアリングを踏まえ、今後、どのような支援案を考えていくのだろうか。また、ネット書店や図書館との関係は、どのようなものになるだろうか。〉

 現在、PTはまだ情報収集の段階。さまざまな取り組みをしている本屋さんの事例を集めています。昔のいわゆる「本屋さん」とは違う取り組みも駆使して、地域の中で面白い存在になっていくお店が増えていく可能性もあるでしょう。

 車座ヒアリングでは、業界の皆さんの危機感が非常に強く伝わってきました。

 そこで出された意見は、業界の課題のほんの一部でしょう。PTとしては課題を集め、整理した上で、本屋さんと情報を共有しながら議論を進めていきたい。特に中小企業支援の制度の活用については、制度の存在を知らない書店さんも多いようなので、経産省としてしっかりとサポートをする方法を考えていきたいと思っています。

 また、日本の再販制度は先に述べたように、出版社が設定した価格で書籍を全国一律で販売する制度です。再販制度のあり方にはさまざまな意見がありますが、どんな地域でも同じ価格で本が買えるこの制度は、やはり地方と東京の文化水準を維持する意味で大切な役割を果たしています。

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