通園時に保護者と別れて号泣する子ども ベテラン保育者が「もっと泣け」と思う深い理由

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大泣きはアタッチメントが育っている証拠

 さて、4月の子どもたちに話を戻そう。これはもう20年ほど前に筆者がベテラン保育者から聞いた話。「以前と比べて保護者と別れるときに泣かない子どもが増えた」そうなのである。その保育者に言わせれば、保護者と離れる場面で大泣きする子どもを見るとホッとし「もっと泣け、もっと泣け」と思うのだそうだ。

 園の前で、園バス乗り場で、あるいは通園途中で子どもが大泣きするのはまさに、子どもの心に保護者に対するアタッチメントが育っている証拠なのだ。いわばその子どもから「あなたはわたしの保護者(親)ですよ」と認めてもらったしるしと言っていい。しかし、子どもが泣くからと言って心配する必要はない。すぐに園が「よく知っている環境」となり、先生のことが大好き(アタッチメント対象)になるはずだから。

 子どもにとって保護者(親)・保育者は、アタッチメントの対象であるがゆえに、子どもは保護者(親)・保育者(先生)に愛されたいし、喜ばせたいし、悲しませたくないのである。「無償の愛」を与えてくれるのは、大人ではなくむしろ子どもなのだ。願わくは、子どもからもらっている無償の愛を大人の勝手な都合で利用せずにいたい。

注1  P. Gertler, J. Heckman, R. Pinto, A. Zanolini, C. Vermeesch, S. Walker, S. M. Chang, and S. Grantham-McGregor. (2014). Labor Market Returns to an Early Childhood Stimulation Intervention in Jamaica. Science. May 30; 344(6187): 998-1001.
注2 ポール・タフ. (2017). 『私たちは子どもに何ができるのか』(英治出版)(高山真由美訳, Paul Tough, (2016). HELPING CHILDREN SUCCEED.)

西尾新(にしお・あらた)
2003年に京都大学教育学研究科博士号(教育学)取得。現在、甲南女子大学人間科学部総合子ども学科教授。専門分野は、発達心理学、教育心理学。還暦ゲーマー、持ちブキはスプラシューターコラボ、ウデマエは現在Sクラス昇格戦中。共著書に、『公認心理士の基礎と実践(8)学習・言語心理学』(2019年遠見書房刊、第8章「非言語的・前言語的コミュニケーション」担当)。

デイリー新潮編集部

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