源氏物語を解説したマンガが「発売23年で異例の40刷」一体、何がスゴいのか? 著者に聞いた制作秘話

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読まないと分からない最大のナゾ

 足かけ23年の歳月で変わったのは、それだけではない。いうまでもないが、40歳代だった著者の小泉さんは、70歳代。担当編集者の菊地さんは、いまや幻冬舎取締役である。

 あらためて小泉さんが回想する。

「発売以来、高校の古典の教科書で紹介されたほか、ある学習塾では参考書になり、また、副読本のように使っている大学もあるようです。甥が大学生の頃、『叔父さんの本を教授が紹介したのでびっくりしたよ』と電話してきたことがありました。『源氏』研究者でも机上に置いてくれている方がいます。僕 は、流行り物を描こうとは思っていません。やはり長く読まれる作品を描きたい。仮に図書館で読んだとしても、手もとに置いておきたくなるような、そんな本をつくりたかったので、感慨無量ですよ」

 その思いは、足かけ23年たっても増刷がつづいていることで、見事に達成されたといえるだろう。担当の菊地さんも「とっても可愛くて、手に取りやすい。でも内容はとても正確で丁寧で、本格的。そのあたりが長く愛される理由だと思います」とのこと。最後に、冒頭の『源氏』ファンの編集者に、本書の“トリビア”を教えてもらった。

「『源氏物語』が全54帖で構成されていることは有名ですよね。ところが本書の目次に並ぶ帖名を見ると、何度数えても“56帖”あるんですよ。2つ多いんですよ。実は、小泉さんは、帖名だけが伝わっていて本文がない、〈輝日宮〉〔かがやくひのみや〕と〈雲隠〉の帖を、ちゃんと描いてるんです」

〈輝日宮〉は第1帖〈桐壺〉のすぐ後にあったといわれており、内容はある程度、想像できる。だが〈雲隠〉は、光源氏編の最終帖〈幻〉の後にあったらしい帖名だ。この間に8年の空白があり、光源氏は出家~薨去、以後は孫の世代の物語となる。そこに至る〈雲隠〉が描かれているというのだが……。

 担当編集の菊地さんによると――「この〈雲隠〉の部分については、読者の方から、『印刷ミスではないか』との問い合わせが来たことがあります」

 さて、ここを小泉さんがどう描いたのかは、実際に本書でご確認いただきたい。

森重良太(もりしげ・りょうた)
1958年生まれ。週刊新潮記者を皮切りに、新潮社で42年間、編集者をつとめ、現在はフリー。音楽ライター・富樫鉄火としても活躍中。

デイリー新潮編集部

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