源氏物語を解説したマンガが「発売23年で異例の40刷」一体、何がスゴいのか? 著者に聞いた制作秘話

エンタメ

  • ブックマーク

発売から20年。毎年、増刷している“源氏マンガ”

 大河ドラマ「光る君へ」は越後編となり、そろそろ「源氏物語」執筆開始も近いのではと、ファンの期待も高まっている。書店には、あいかわらず「源氏」「紫式部」「平安」解説書がならび、ちょっとした“源氏特需”の様相を呈しているようだ。

 そのなかで、別格の貫禄で鎮座するのは、やはり“源氏マンガ”の決定版、大和和紀『あさきゆめみし』(講談社)だろう。コミックス、文庫、新装版などで累計1800万部を突破しているという、“国民マンガ”である。古文試験のサブテキストとしても有名で、「試験によくでる『あさきゆめみし』」なんて受験対策本が出たこともあった。そのせいか、いまでも12月と4月の年2回、定期的に増刷となっているそうである。ところが……。

「年に2回増刷がかかる“源氏マンガ”は、ほかにもあるんですよ」

 と、源氏ファンのベテラン女性編集者が教えてくれた本がある――「大掴 源氏物語 まろ、ん?」(幻冬舎刊)という。著者は漫画家・絵本作家の小泉吉宏(よしは「土」の下に「口」)さん(71)だ。さっそく書店の店頭で奥付を見てみると……

 2002年2月10日 第1刷発行
 2024年2月10日 第40刷発行

 とある。なんと20年以上前に出たマンガが、絶版になることもなく増刷がつづき、今年2月で40刷! たしかに平均すると、ほぼ年に2回増刷していることになる。オビのコピーによれば、20万部を突破しているようだ。

 近年、本が売れないとか、書店が減少しているとか、暗いニュースばかりの出版界にあって、驚くべきロングセラーである。

 しかし……これ、いわゆる“解説マンガ”じゃないの?

「たしかに書名に〈大掴〉〔おおづかみ〕とあるうえ、光源氏のキャラが栗=マロンで描かれているなど、一見、軽いダイジェスト・マンガに見えるでしょう。ところが、一度だまされたと思って、どこでもよいので開いてみてください。全260頁余、たった1冊のなかに、『源氏物語』の〈すべて〉が見事に詰まっていることに驚くと思います」

 そういわれて、パラパラとめくってみれば……たしかに一般的な解説マンガとは、一線を画していることがすぐにわかる。本書の特徴をいくつかあげてもらった。

「まず、全54帖すべてのストーリーを、1帖あたり見開き2頁=8コマで、コンパクトにまとめている点が見事です。もちろん光源氏の没後~〈宇治十帖〉まで、すべて入っています。『源氏』は、帖ごとに長さがちがいます。それをすべて8コマに統一しているのですが、実にうまくまとめられているのです」

 たとえば〈篝火〉は現在の全集類では4頁ほどだが、〈若菜〉上下は、各々100頁近くある。しかし、長い帖も短い帖も、とにかく8コマにきれいにおさめているのだ。

「この描き方は、小泉さんの人気シリーズ『ブッタとシッタカブッタ』の雰囲気に近いものがあります。CMディレクター・コピーライター出身のせいか、小泉さんはややこしい話を、端的にズバリとまとめてしまう稀有な才能があります」

 次に、帖の合間に挿入されるミニ・コラムやイラスト解説頁。

「話が進み、新たな重要人物が登場するたびに、人物系図で説明してくれるので、前を振り返る必要がありません。また、光源氏(まろ)と、“ライバル”頭中将が、いまどのあたりの官位にいて、どっちが上なのかも、『官位表/今まろはこの位にいる』をしばしば挿入して、わかりやすく示してくれます。当時の貴婦人が外出するときはどんな衣裳だったのか、冠の着け方など、ヴィジュアルで楽しむための背景知識も、シンプルなマンガで、わかりやすく説明されています」

 重要な和歌の現代語訳などもちゃんとおさえられている。そして、『ブッタとシッタカブッタ』でおなじみの、格言のようなメッセージのような、“ひとこと”が時折登場する。

「これが、長い物語の合間に、とてもいいアクセントになっているんです。たとえば〈賢木〉のあとには、ユーモラスなまろの絵にあわせて――『障害のある恋は燃える。人は情熱の激しさを愛の深さとつい思い込むようだ。』なんて、思わず“あるある”といいたくなるコトバが登場します」

次ページ:光源氏を栗のキャラクターにした理由

前へ 1 2 3 次へ

[1/3ページ]

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。