いつの間にか「グルメ」「旅」「仰天事件簿」ばかりに…テレビが本当につまらなくなった
コア層を侮っているのではないか
ターゲットが若い世代だと思い、侮ったのではないか。しかし、10代から40代までであろうが、ドラマを観る眼があるのは言うまでもない。コア層は軽い連ドラ、恋愛が絡む連ドラを好むという思い込みが制作側にある気がする。コア層だってテーマ次第で社会派作品も観るはずだ。
「イップス」もそうだが、連ドラが当たらない理由の多くは脚本にある。脚本家不足を嘆くプロデューサーは多い。しかし、背景には民放各局が脚本家の育成に熱心とは言えない現実がある。これもPUT低下の遠因になっているだろう。
民放各局ともシナリオのコンクールを行い、次々と新人脚本家をデビューさせているが、その後のフォローは十分とは言えないのだ。育成費を出しているわけではない。
中堅以上の脚本家も厚遇されているとは言えない。日本脚本家連盟に加入している人だけでも脚本家は1600人以上いるが、定期的に連ドラを書く機会のある人はほんの一握り。さらにプライム帯の連ドラの脚本料は平均1回当たり100万円程度だから、10回分書いても1000万円前後にしかならない。その上、毎年書けるとは限らない。
そんなこともあって、脚本業からほかのクリエイティブ業に転出したり、廃業したりする人が後を絶たない。テレ朝「相棒season9」(2013年)で、少年少女の孤立と貧困をテーマにした名作「通報者」などを書いた太田愛氏も今は小説家。ドラマはほとんど書いていない。視聴者にとっては損失だ。
連ドラを1作品書くと3年は暮らせるようになったら、状況は随分と変わるはずだが、連ドラの制作費はぜんぜん増えていないから無理。1回に付き約4000万円かけられている「日曜劇場」を除き、プライム帯の連ドラの制作費は平均約3000万円しかない。
1時間程度の作品に1億円以上かけているNetflixやアマゾンプライム・ビデオとは雲泥の差と言っていい。それどころかプライム帯のドラマの中には制作費が2500万円を切る作品まで出てきた。
制作費が安いドラマはすぐに分かる。カット数(場面の数)が少なく、映像に迫力を感じにくい。CGもチープでリアリティに欠ける。
また、ギャラが安く済むので、お笑い芸人ら俳優以外の出演者を多く起用するから、中にはブレーキになる出演者もいて、作品全体の質を落としてしまうこともある。
選択肢が狭まったこともPUT低下を招いたと見る。いつの間にかグルメと旅、ものまね、企業対決、国内外の仰天事件簿ばかりになってしまった。
世間の話題をさらう画期的な新番組の開発が望まれる。過去には日テレ「アメリカ横断ウルトラクイズ」(1977~92年、98年)、フジ「なるほど!ザ・ワールド」(1981~96年)、同「料理の鉄人」(1993~99年)など社会現象化した番組がいくつもあった。アイディアが出尽くしたということはないはずだ。
「BPO(放送倫理・番組向上機構)がテレビをつまらなくした」と言う向きもあるが、それは的外れ。「アメリカ横断ウルトラクイズ」など記録的視聴率をマークした番組で、今のBPOが問題視しそうなものはない。子供から高齢者まで多くの人が安心して観られたから、爆発的にヒットしたのである。
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