Mrs. GREEN APPLE炎上の理由は考察ブームの読み違え? 「クリエイターが一番偉い風潮」も背景か

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 新曲「コロンブス」のMVが強い批判にさらされ、公開からすぐに配信停止となった人気バンド、Mrs.GREEN APPLE(ミセスグリーンアップル)。ライターの冨士海ネコ氏は、炎上の原因は広告代理店やクリエイター業界特有の野心や駆け引きによるところが大きいのでは、と分析する。

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「策士策に溺れる」。Mrs. GREEN APPLE「コロンブス」のミュージックビデオを炎上後にひととおり見た時、そう思った。

 批判する意見には、表現すべてを否定するようなものも見られたが、きちんと作品を見ると、リスク対策が感じられる箇所は少なくとも2点ある。しかし、それはきちんと伝わっていない。妙にこねくり回したリスク回避表現になってしまっているのだ。

 冒頭でコロンブスに扮した大森さんは、類人猿たちがパーティーをしている家を訪れた時「類人猿だ」と叫んでいる。コロンブスが虐殺した先住民の描写ではない、人間を差別的に猿として描いたわけではない、というエクスキューズなのだろうが、すでにイントロが始まっており、口の動きでどうやらそう叫んでいることしか分からない。

 もう一つはラスト、メンバーが立ち去った後に崩落した「バベルの塔」のかけらが映るシーン。これは一見しただけでは何を映しているのか分からず、識者の記事を見てようやく分かった。天に達するほどの高い塔を建てようとした人類に神が怒り、それまで一つであった人間の言葉を混乱させるために壊したという聖書の逸話である。つまりミセスの三人が類人猿に音楽やら馬の乗り方を教えるも、実は過去に文明が根付いていた土地であったという皮肉である。さらに言えば「猿の惑星」のオチのオマージュともとれるが、コロンブスたちが類人猿より優れた文明人だと描いたわけではないと言いたいのだろう。

 ただ「バベルの塔」にしても「猿の惑星」にしても、その知識のある人にしか分からない演出ではリスク対策の意味がない。

 SNSの普及で加速した考察ブームによって、「分かる人には分かる」クリエイティブの価値は高まっている。アニメのオープニングや映画のセリフに「あれが元ネタ」と目配せしあうのは、優越感をくすぐる。おそらく今回のMVも、その手の考察も含めてバズるのを意図していたはずだ。ただその野心が、裏目に出てしまったように思うのだ。

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