容赦ない勧善懲悪で気分爽快 「梨泰院クラス」アン・ボヒョンも当たり役 アクションコメディ韓国ドラマ4選

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悪さと間抜けさを兼ね備えた悪役が光る

「軍検事ドーベルマン」(U-NEXTで配信中、NetFlixで7月から配信予定)の主人公は、幼い頃に軍人だった両親を事故で失いながらも、中卒で司法試験に合格したト・ベマン。低学歴のコネなしがゆえに就職が決まらない中、大手法律事務所の代表ヨン・ムングから持ち掛けられた「軍検事として5年務めたら、パートナー弁護士に」という取引を受け入れることにした。

「金に忠実なムングの飼い犬」として、入隊中の金持ちの子息に便宜を図る(時には脅迫のネタに使う)仕事をそつなくこなし、除隊まであと1ヶ月というべマンのもとに、赴任してきたのは新任の軍検事チャ・ウイン。べマンと正反対の「法にまさる階級はない」という信念のもと、あらゆる序列をすっ飛ばして突き進む彼女の真の狙いは、彼女の父が営む会社を奪い、自殺に追い込んだ師団長ノ・ファヨンへの復讐だった。両親の事故死もその流れの中でファヨンが仕組んだことだと聞かされたべマンは、やがてウインと協力して真相究明に乗り出してゆく……。

 強烈な悪役でインパクトを残した「梨泰院クラス」以降、主演スターとして次々と大ヒットを飛ばすアン・ボヒョン。その当たり役である本作は、抜け目はないがどこかお気楽でコミカルで、チョ・ボアが演じる一本気な武闘派チャ・ウインとのコントラストには、バディ物の王道の楽しさがある。脚本を手掛けたのはヒョンビン&ユ・ヘジンのバディで大ヒットした映画「コンフィデンシャル/共助」の作家で、アクションと笑いの波状攻撃も小気味よい。壮絶な新兵イジメや、男性→女性のみならず、男性→男性のセクハラなど、知られざる軍内部の事件を描いたエピソードも見応えがある。

 アクションコメディの面白さは、悪さと間抜けさを兼ね備えた悪役がいることも大きなポイントだ。この作品では「愛の不時着」の“耳野郎”こと盗聴担当で知られるキム・ヨンミンがいつもの小憎たらしさでムング役を演じている。それ以上にいいのが、チャ・ウインの父から奪い取った会社の会長に納まる師団長の息子ノ・テナムだ。師団長である母親の威光を笠に着た極悪お坊ちゃまとして登場したテナムは、話が進むうちにその虚勢が1枚また1枚と剥がされ、やがて母親による壮絶な虐待の被害者という顔が現れる。嘲笑っているうちに、うっかり泣かされてしまうのだ。こういうのも韓国ドラマはうまい。

 どのアクションも「法が裁かない悪人」を成敗するヒーローが登場するのは、韓国社会に社会的階級の格差や権力の腐敗などの理不尽が横溢しているためかもしれない。日本社会にとってもまったく他人事ではないが、だからこそ容赦ない勧善懲悪のドラマの存在意義がある。痛快に活躍する登場人物たちは、きっと見る人の溜飲を下げてくれるはずだ。

渥美志保(あつみ・しほ)
TVドラマ脚本家を経てライターへ。女性誌、男性誌、週刊誌、カルチャー誌など一般誌、企業広報誌などで、映画を中心にカルチャー全般のインタビュー、ライティングを手がける。Yahoo!オーサー、mi-mollet、ELLEデジタル、Gingerなど連載多数。釜山映画祭を20年にわたり現地取材するなど韓国映画、韓国ドラマなどについての寄稿、インタビュー取材なども多数。著書『大人もハマる韓国ドラマ 推しの50本』(大月書店)が発売中。

デイリー新潮編集部

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