前静岡県知事・川勝平太氏の「言い分」にも一理ある? 当事者からすれば“案外理解できる”意見だった(中川淳一郎)

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 川勝平太・前静岡県知事はリニアモーターカーを静岡には通さん!といった主張をして注目された人物ですが、「川勝と静岡県がゴネるからリニアが通らない。お前たちは国賊だ!」的な意見もありました。

 同氏はトンネルを掘ることで、水源に問題が発生することを懸念材料にしていました。これは「全体最適」を考える人々からすれば暴言かつワガママな意見だと捉えられたのです。しかし、当事者になってみると川勝氏の意見も案外理解できるんですよね。

 私は佐賀県唐津市在住です。西九州新幹線の博多から長崎への敷設に関し、佐賀県の負担は1400億円とされました。佐賀県は反対の立場でしたが、現在在住の私も同じです。正直、この新幹線が博多から長崎につながろうが、佐賀県にとっては何もいいことはないんですよ。しかも唐津から、新幹線が止まる武雄温泉駅なんて電車に乗ったら2時間ぐらいはかかるほど遠い。

 武雄温泉に止まる、といっても、武雄って佐賀県内では人口5位の約4万8000人。武雄温泉は観光地ではあるものの、正直佐賀県民からしても「まぁ、あんま行かないわな……」というものです。

 私も佐賀に住んでから3年7カ月となりましたが、武雄に行ったのは、初期の頃に佐賀県にまつわるPR記事を書くため、現地で取材する必要があったからです。それ以降は一度も行っていません。

 佐賀県民からしても武雄は「別に行かないでもいい街」なんですよ。東京都民が町田や青梅に特に行かないでもいいような感覚とでもいえるのではないでしょうか。

 だからこそ、そんな街に新幹線が止まるから佐賀県も費用を負担しろ!というのはまったく納得がいかない。本当に佐賀県には何もメリットがないんです。メリットがあるのはさっさと長崎に行きたい観光客と、長崎県だけです。単に焼野原を作られて放置されたようなものなんです。

 とはいっても、反対をするだけでは生産性がない。もう新幹線造ってしまったんだからしょうがねぇよな~的な協力はそりゃあしますよ。ここで解決策の参考になるのは原発政策です。

 唐津の近くには九州電力の玄海原発があります。原発って怖いと思う方多いですよね。そういったことも踏まえ、年間5000円弱のカネをわれわれはもらっています。

 郵便局に九電からの振込用紙的なものを持って行けば、その場で現金がもらえます。その日は一杯飲むかー!とばかりに居酒屋に繰り出す。原発があることに対し、こうして近隣住民へのガス抜きをしているわけですね。

 再度言いますが、西九州新幹線で佐賀県へのメリットは一切ない! しかし、それを必要とする人がいるのならば協力する! だったらカネ出せ!

 これが結論です。JR九州が全佐賀県民に年間500円でも払えば、これでガス抜きになりますよ。全81万県民に渡しても4億500万円です。その程度の金額で「まー、仕方ねぇな。今日は刺身を一つ追加するか。ありがとよ」ぐらいの話になって反対運動が沈静化するのであれば、それの方が利点が大きいのでは?

中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)
1973(昭和48)年東京都生まれ。ネットニュース編集者。博報堂で企業のPR業務に携わり、2001年に退社。雑誌のライター、「TVブロス」編集者等を経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『ウェブでメシを食うということ』等。

まんきつ
1975(昭和50)年埼玉県生まれ。日本大学藝術学部卒。ブログ「まんしゅうきつこのオリモノわんだーらんど」で注目を浴び、漫画家、イラストレーターとして活躍。著書に『アル中ワンダーランド』(扶桑社)『ハルモヤさん』(新潮社)など。

週刊新潮 2024年6月20日号掲載

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