【全米オープン】リブゴルフ移籍後「生まれ変わった」デシャンボーが優勝 「残念な姿」をさらしたマキロイには批判の嵐

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批判の嵐

 振り返れば、5月の全米プロでは先に首位でホールアウトしたデシャンボーがプレーオフに備え、練習場で球を打ちながら後続選手のプレーを屋外モニターで眺めていた。

 そして、ザンダー・シャウフェレがウイニングパットを沈めた姿を目にすると、手にしていたアイアンをその場に置いて大急ぎで18番グリーンへ駆けつけ、「おめでとう!」とシャウフェレを祝福した。

 そうやってグッドルーザーぶりを披露したデシャンボーが1カ月後の今回は勝者となったのだが、敗者となったマキロイは残念ながらグッドルーザーぶりを見せることなく無言でスピード退散していった。

 米メディアは「マキロイの去り方は試合で敗北したこと以上に残念だ」と酷評。SNSにも「デシャンボーにおめでとうの一言ぐらいは言うべきだった」「メディア対応は選手の義務だ」「スポーツマンシップが感じられない」「失望させられた」等々、マキロイ批判の嵐が巻き起こった。

 最終日の大詰めで短いパットを続けざまに外して自滅気味に負けたマキロイを、面白おかしく皮肉る動画も多数出回った。

「最もタフな日だった」

 翌日(6月17日)、マキロイはSNSで声明を出し、すでにエントリー済みだったPGAツアーのトラベラーズ選手権を欠場すると発表。そこには苦しい胸の内がつらつらと綴られていた。

「昨日はタフな1日だった。おそらく僕のプロゴルファーとしてのこの17年で最もタフな日だったと思う……」

 文面には「デシャンボーは勝者に値するチャンピオンだ」と彼を祝福する言葉もあれば、16番と18番のパットを外したことへの後悔も綴られていた。

 そして、数週間は試合から離れてオフを取り、気持ちをリセットした上で、昨年、勝利したジェネシス・スコティッシュ・オープンとその翌週の全英オープンに臨むつもりであることも伝えられ、「スコットランドで会おう」という最後の一言にはピースサインのスタンプも添えられていた。

 マキロイはメジャー4勝を含む通算26勝を誇る世界ランキング2位のトッププレーヤーだ。しかし、最後にメジャー優勝を挙げたのは2014年の全米プロなので、すでに10年もメジャー優勝から遠ざかっている。

 だからこそ、首位を走っていたデシャンボーに追い付き、追い越し、単独首位にも立ちながら大詰めでショートパットを2回も外して敗北したことは、あまりにもショッキングだったのだろう。「この17年で最もタフ」という表現からは、そんな彼の悔しさがひしひしと伝わってくる。

 しかし、どんなに悔しかろうとも、いや非常に悔しいからこそ、潔く敗北を認めて勝者を讃えてほしかった。その姿を世界中のゴルフファンと子供たちに披露してほしかった。

 全米プロで惜敗したデシャンボーだって「あと1打、足りなかった」と語ったあのとき、悔しくなかったはずはない。だが、すぐさまクラブを置き、練習場から18番グリーンへ急行して勝者を讃えたデシャンボーの姿は、勝者に負けないほど眩しく輝いていた。

 勝利数、世界ランキング、存在感や人気、どこから見てもゴルフ界の大物選手であるマキロイには、だからこそそういう眩しいほどの言動をきちんと見せてほしかった。

 マキロイが全米オープンの戦いに負けたことより、マキロイが彼自身に負けたことが、私は残念でならない。

舩越園子(ふなこし・そのこ)
ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学客員教授。東京都出身。早稲田大学政治経済学部経済学科卒。1993年に渡米し、在米ゴルフジャーナリストとして25年間、現地で取材を続けてきた。2019年から拠点を日本へ移し、執筆活動のほか、講演やTV・ラジオにも活躍の場を広げている。『王者たちの素顔』(実業之日本社)、『ゴルフの森』(楓書店)、『才能は有限努力は無限 松山英樹の朴訥力』(東邦出版)など著書訳書多数。1995年以来のタイガー・ウッズ取材の集大成となる最新刊『TIGER WORDS タイガー・ウッズ 復活の言霊』(徳間書店)が好評発売中。

デイリー新潮編集部

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