竹内結子さんとの「約束」果たせず…後悔の念「事務所に門前払いされても、彼女とかかわるべきでした」「この映画を捧げたい」
「誰よりも原作を尊重」
山口氏の俳優の才能を引き出す力は折り紙付きだ。過去にはフジの「カバチタレ!」(2001年)で常盤貴子(52)と深津絵里(51)をコメディエンヌとして広く認知させた。窪塚洋介(45)の知名度と評価を決定的にしたのも常盤貴子とダブル主演した同「ロング・ラブレター~漂流教室~」(2002年)にほかならない。
2010年からTBS系(制作・毎日放送)の連ドラと映画で大ヒットした「闇金ウシジマくん」シリーズでは、山田孝之(40)を主人公の闇金業者・丑嶋馨役に起用。山田は俳優としての幅を飛躍的に広げた。
「ウシジマくん」は同名漫画が原作で、作風はシリアスかつダーク。丑島は極悪キャラだ。従来のキャスティングの常識なら、アクション系のコワモテな俳優が起用されそうな局面だが、山口氏の考え方は違った。丑島に原作以上の清潔感とチャーミングな一面を持たせ、群像劇の味わいを付けることにより、視聴者層と観客層を拡大させた。
「おいハンサム!!」もそう。これまで家庭人のイメージが薄かった吉田鋼太郎を3姉妹の父親役に起用したことが成功につながった。
「源太郎はちょっとウザくて強いパパ。昭和のホームドラマの頑固オヤジとはかなり違います」
それが吉田にぴったりと合い、本人のドラマの代表作に加わった。それだけではない。出演者全員、損をした俳優が見当たらない。全員がハマり役。当たり前のようで、最近のドラマでは珍しい。
「成功する作品というのは、何となくそうなるものです」
山口氏のドラマ、映画は原作者も損をしない。青年向け漫画が原作だった「カバチタレ!」にはドラマ化後、女性も飛びつき、発行部数が激増した。1972年の「ロング・ラブレター~漂流教室~」は楳図かずお氏の原作漫画を再評価する声が高まった。どちらも大胆に改変してあるが、トラブルは一切なかった。
山口氏が「原作を映像化しようとする作り手は、誰よりも原作を尊重し原作に詳しくなくてはならない」という信念を抱いているからだろう。
「適当に原作を持ってきて、『これがやりたい』といえばプロデューサーを名乗れるかも知れませんが、それは実は本当のプロデューサーではない。最終的に作品の全責任を背負ってこそのプロデューサーです」
「かけがえのない存在だった」
伊藤理佐氏原作の「おいハンサム!!」もそう。原作は漫画でクスリと笑えるハートウォーミングなコメディだが、山口氏によって爆笑を誘いつつ日々の生活や人生のための指針や教訓に満ちた内容になった。それでいて原作の持ち味、スピリットは一切崩されていない。
山口氏はこの映画をフジ「ランチの女王」(2002年)、同「不機嫌なジーン」(2005年)で組んだ竹内結子さんに捧げたいという。意外な気がするが、そこには深い後悔の念がある。
「ドラマのseason1で源太郎のこういうセリフを書きました。『どんなに身近な店でも、いつでも行けると思わないこと。どんなに大切な人でも、いつでも会えると思わないこと。結局、積極的にかかわろうとすることでしか、その関係は守れないんだ』」
山口氏は生前、竹内結子本人から「(次の役のオファーを)待ってますよ」と伝えられていた。しかし竹内はすでに堂々たる主演クラスで、そのポジションにふさわしい役や企画が固まるまでと、連絡を控えていた。
「小さい役やまだ思い付き段階の企画であっても、たとえそれが事務所に門前払いされても、もっと頻繁にやりとりし、彼女とかかわるべきでした。僕にとって竹内さんは大切な役者、かけがえのない存在だったのですから。ドラマ『おいハンサム!!』の源太郎のセリフはこう続きます。『だから……、あれこれ遠慮するな。あれこれ考えるな。電話をしろ。手紙を書け。会いに行け。あとで後悔しないように』。これが竹内さんを失った僕の強い思いなのです」
山口氏のドラマ、映画には例外なく本人の哲学が込められている。