「若い女の兵士がニヤニヤとしながら、ピストルを突きつけて…」 朝鮮半島に進駐してきたソ連兵は「赤ん坊の着物」まではぎとった #戦争の記憶

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 ロシア軍のウクライナにおける暴虐は数多く伝えられている。ロシア側の戦闘員には、民間の受刑者らが「ストームZ部隊」の兵士として多数投入されているという報道もある。

 歴史は繰り返すということだろうか。

 1945年8月、朝鮮半島。敗戦の6日後にはソ連軍が北朝鮮に進駐し、略奪と暴行の限りを尽くしたといわれるが、そこでも「囚人番号」らしき入れ墨が刻まれたソ連兵の姿が目撃されている。難民と化し格好の餌食となった在留邦人たちは、どれほどまでに凄惨な体験を強いられたのか――。

ソ連兵によるすさまじい略奪

 終戦直後の北朝鮮では、ソ連兵が略奪、暴行の限りを尽くした。避難民ばかりでなく、各地に残る日本人が格好の餌食となり、恐怖におののいた。
 
 ソ連軍は1945年8月21日に東海岸の都市、咸鏡南道(ハムギョンナムド)元山(ウォンサン)と咸興(ハムン)に進駐した。北朝鮮の中心都市・平壌(ピョンヤン)には、24日に鉄道と大型輸送機で入城した。米軍が北緯38度線以南で軍政を敷いたのとは異なり、ソ連軍は朝鮮人による人民委員会を行政の主体とする間接統治方式を採用した。ソ連軍が北朝鮮から撤収するのは、朝鮮民主主義人民共和国が1948年9月に建国した後の同年12月だった。
 
 北朝鮮には終戦当時、陸海合わせて約12万人の日本軍が駐屯していた。ソ連軍はその武装解除を行うと、使役のため1000人単位の作業集団に編成してシベリアに連行した。軍人だけではなく、朝鮮総督府の官吏や警察官まで拘束した。

「汚い格好で赤鬼みたいな顔をしたのが」…

 進駐してきたソ連兵による略奪はすさまじかった。元玉川大学教授の若槻泰雄の著書『戦後引揚げの記録』は、次のように指摘する。

〈道路上で小銃をつきつけポケットから目ぼしいものをとりあげるという“軽度”のものから、トラックを日本人の家に乗りつけて根こそぎ奪っていくという“本格的”な略奪まで、やり方はさまざまだが、ソ連兵の中には、女性の髪の中をさぐり、あるいは赤ん坊の着物まではぎとったものさえいる〉

 国民学校6年生だった藤川大生(ますお)は、生まれ育った平壌にソ連兵が進駐してきた直後の光景が目に焼き付いている。
 
「8月25日前後です。汚い格好で赤鬼みたいな顔をしたのが、何台ものトラックに分乗して平壌に入ってきました。そいつらが今まで日本軍が使っていた兵舎や施設を接収して、自分たちの部隊で利用した。

 3~4カ月で次の部隊と駐留を交代したけどね、最初に進駐してきた部隊はみんな、手の甲に入れ墨があった。数字が彫ってあるんですよ、囚人番号でしょうか」

まず狙われたのは「時計」

 全ての物資を現地調達する方式は、日本人、朝鮮人の区別なく民間人に無数の被害を生んだ。
 
「やつらはとにかく、何もモノがない。まず狙うのが時計です。腕時計だろうが置き時計だろうが、脅してひったくった。僕が仲良くなったソ連兵は『時計なんて自分の村には教会に一つだけしかない』と言っていた。

 日本人だろうと朝鮮人だろうと、行き交う人を捕まえては、時計をひったくる。両腕にたくさんの時計をはめている兵士もいた。

 連中はねじを巻くことを知らないんだ。だからカチカチという時計の針が動く音がしないと、『死んだ』と言って捨てちゃうんですよ」

若い女の兵士がニヤニヤとしながら、ピストルを突きつけて「動くな」

 藤川の家に、ソ連兵が強盗に押し入ったのは白昼のことだったという。食品加工会社に勤務していた父の一生は終戦の3カ月前から、中国・天津に長期出張していた。植民地時代の警察はすでになく、無法者を阻止する者はいなかった。
 
「家の前に軍用トラックを横付けするんですよ。『来たぞ』と言うと、おばあちゃんだけ残して、母と姉や妹は天井裏に隠れた。まだ若い女の兵士がニヤニヤとしながら、僕にピストルを突きつけて『動くな』と。拳銃を突きつけた女は囚人ではなく、将校にみえました。

 一緒に来た4~5人の男が、部屋中を探すんです。6畳ほどのじゅうたんを部屋に敷いて、日用品や時計、洋酒などあらゆるモノをじゅうたんの上にボンボン入れちゃう。家中を物色し終わると、女に『これくらいでいいか』と聞いて、彼女が『うん』と言うと、じゅうたんの四隅をもって引きずりながら出て行った。そういう被害が2度ありました」

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 第1回の〈「日本人6万人」の命を救った“アウトサイダー”を知っていますか 〉ではきわめて過酷な状況下で6万人という、外交官・杉原千畝の「10倍」もの同胞を祖国に導いた「松村義士男(ぎしお)」について紹介している。

 ※『奪還 日本人難民6万人を救った男』より一部抜粋・再編集。

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