韓国紙が報じた「日朝極秘交渉」は眉ツバ、「有力な家門の政治家」は明らかにおかしい…専門家が指摘する“問題部分”

国際 韓国・北朝鮮

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記事の矛盾点

「まずニュースソースを《複数の情報筋によると》と書いた記事は眉唾物と見なすのは、国際報道の常識です。取材に自信がある記事なら、はっきりと『政府高官によると』とか『外務省筋によると』と明記するからです。さらに中央日報の記事には、北朝鮮側の代表団は『諜報機関である偵察総局の関係者と外貨稼ぎの働き手』で構成されたと書かれています。一応、理由は色々と書かれていますが、対日交渉を担当するのは国家保衛省で、それ以外はあり得ません」(同・重村氏)

 日本側の代表団に《有力な家門出身の政治家》が含まれていたという記述も違和感があるという。

「北朝鮮も韓国も家柄を重視する傾向がありますが、日本は両国ほどではありません。特に北朝鮮との重要な会談に出席するとなれば、外交や北朝鮮の事情に精通した政治家が選ばれるはずで、家柄など関係ないはずです。中央日報の記述は韓国社会の常識に引っ張られた格好になっており、これでは信頼度が下がります」(同・重村氏)

 さらに北朝鮮の政治システムも、中央日報の記事は無視してしまっているという。

「記事はモンゴルを舞台に日朝の関係者が実務者協議をスタートさせたように読めます。こうした“ボトムアップ”型の外交は普通の国家ならあり得る話です。しかし北朝鮮は独裁国家であり、“トップダウン”の命令系統しか存在しません。金与正氏の意向に逆らって日本と交渉を続けていたりすると、国家反逆罪に問われる可能性があります。実際、金与正氏は日朝が交渉を続けている時、『なぜ日本側は下っ端とばかり話をしたがるのか。私と直接、話をしないのはなぜだ』と苛立っていたことが分かっています」(同・重村氏)

金正恩の親書

 とはいえ、最初から最後までデタラメという記事を書くのは逆に難しい。中央日報の報道には、それなりの“ファクト”も含まれているという。関係者が明かす。

「6月5日、新聞各紙は岸田首相が8月のモンゴル訪問を検討していると報じました。モンゴルは親日国として知られており、ウフナーギーン・フレルスフ大統領は日朝交渉をバックアップしていたのです。具体的には林芳正官房長官と金与正氏の“連絡役”を務めていました。日朝交渉が決裂した3月、北朝鮮の外交関係者がモンゴルを訪問し、フレルスフ大統領に金正恩(キム・ジョンウン)氏の親書を渡しました。モンゴルは北朝鮮に食糧を援助しており、親書は送られた羊1万5000頭へのお礼が書かれていました。ところが、その後に林官房長官の発言に触れ、『大統領は日本が朝日会談に前向きだと言っていたが、本当にやる気はあるのか?』との質問が書かれていたのです」

 モンゴルが日朝交渉の舞台になっていたのは事実であり、だからこそ韓国政府にもメディアにも情報が入ってこなかったのだ。そして3月の時点で、北朝鮮は日本との交渉を完全に打ち切っていたことが親書のエピソードから読み取れる。

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