阪神ファンの“妨害”でホームランが…球史に残る「幻弾」 瓶の投げ込みで取り消しになった「逆転弾」もあった!

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打球は左翼ポールを直撃

 最後は本塁打が観客の妨害行為で取り消しになったばかりでなく、間違いなく球史に残るはずだった「奇跡の逆転サヨナラ劇」まで幻と消えてしまった珍事を紹介する。

 1966年5月10日の大洋対阪神、1対4とリードされた大洋は、5連勝中の余勢をかって、9回裏1死から最後の粘りを見せる。

 近藤昭仁が一塁線を抜く安打で出塁すると、伊藤勲が左越えに2ランを放ち、たちまち1点差。さらに重松省三も左越えに同点ソロ。この日の川崎球場は、右から左に絶好のホームラン風が吹いていた。

 そして、次打者・近藤和彦もバッキーの2球目を左に流し打ち、左翼ポールを直撃するサヨナラ本塁打となった。

 3者連続弾で、鮮やかな逆転サヨナラ勝ち。近藤和は大喜びでダイヤモンドを1周し、本塁に向かおうとしたが、右翼方向が騒がしいことに気づき、いぶかしげに振り返った。

「瓶を投げたのは大洋ファンだからね。仕方がない」

 実は、バッキーが2球目を投じる直前、興奮した右翼席の大洋ファンが、グラウンドにウイスキーの角瓶を投げ入れたため、守備中の藤井栄治が手沢庄司線審にタイムを要求。手沢線審も「タイム!」とジェスチャーを示していた。

 それに気づいた阪神・杉下茂監督は、ベンチから大声で注意したが、連続被弾で頭に血が上っていたバッキーの耳には届かず、そのまま2球目を投げてしまった。

 松橋慶季球審も気づいていなかったが、その後、明らかに投球動作の前にタイムがかかっていたことを認め、2球目をノーカウントとしたうえで、カウント0-1から試合再開を宣告した。8分にわたって抗議した大洋・三原脩監督も、最後は「タイムがかかっていたのが事実だとすれば、これはルールだからしょうがない」と納得して引き下がった。

 この結果、近藤和の本塁打は無効となり、打ち直しの打席は投ゴロ。試合も延長10回の末、4対5で敗れた。

 心ないファンの行為が原因で、逆転サヨナラ勝ちから一転連勝ストップという皮肉な結果に、ナインから「瓶なんか投げるような奴は、今度から留置場へ入れればいいんだ」「藤井が瓶を(拾って)投げ出していたのだから、何もタイムなどかけることはない」などの声も出たが、当事者の近藤和は「瓶を投げたのは(相手チームではなく)大洋ファンだからね。仕方がない。(自分が)滅多に打たないホームラン、それもサヨナラだから、興奮するのは当たり前」と“神対応”を見せていた。

久保田龍雄(くぼた・たつお)
1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。

デイリー新潮編集部

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