「週1回の注射で10%の体重減少が」 「糖尿病薬ダイエット」ブームについて専門家が解説
日本人特有の事情
食欲を抑えることで体重減少が望める糖尿病治療薬の“転用”が世界中で脚光を浴びている。同じ成分で今年2月、肥満症治療薬として発売された注射製剤もあり、さらに4月には国内初の“やせる市販薬”まで登場――。そろい踏みした「魔法の薬」に、あらためて迫る。【前後編の前編】
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WHO(世界保健機関)の推計によれば、2022年には世界で10億人以上が「肥満」に該当したという。実に世界人口の8人に1人であり、1990年と比較すると大人の肥満は2倍以上、5~19歳では4倍に増えたことになるから、ダイエットが世界的関心事となるのも無理からぬ話である。
その算定には、体重(キロ)を身長(メートル)の2乗で割った「BMI(ボディマス指数)」が用いられ、欧米では30以上、日本では25以上が肥満とされている。
「2022年のWHOの資料によると、米国ではBMI30以上の人が人口の35%を超えています。一方、日本では増加傾向にあるものの、比率は5%程度です」
とは、肥満外来を設ける水道橋メディカルクリニックの砂山聡院長。が、単なる数値の比較で片付けてはならない。本当に恐ろしいのは「メタボリック・シンドローム」に陥って複数の生活習慣病を発症することである。内臓脂肪が蓄積して引き起こされる糖尿病や脂質異常症といった症状が心血管系疾患へとつながるため、命にかかわる事態になりかねず、さらには日本人特有の事情もあるというから厄介なのだ。
「糖尿病は膵臓から分泌されるインスリンが相対的に不足することで発症しますが、欧米人に比べてわれわれは、その分泌能力が低いとされている。日本人の糖尿病はインスリンが枯渇してしまうタイプが多く、インスリンが作用しづらくなる『抵抗性』の増加が分泌能を上回っている状態です。しかも日本人では、BMI25以上の『軽度肥満』の段階から、それが起こりやすいのです」(同)
「糖尿病薬ダイエット」ブーム
インスリンの働きが低下して血糖値が慢性的に高くなる「2型糖尿病」の治療薬では、十数年前に登場した「GLP-1受容体作動薬」が知られている。その中でも近年相次いで発売された製剤が、優れた体重減少効果をもつ“一石二鳥の薬”として肥満治療に「活用」されていることは本誌(「週刊新潮」)でもお伝えしてきた通りだ。
具体的には、デンマークのノボノルディスク社が製造した注射製剤「オゼンピック」や経口薬の「リベルサス」(いずれも一般名・セマグルチド)、またライバル社である米国のイーライリリー社が開発した「マンジャロ」(同・チルゼパチド)などが挙げられる。
むろん、これらが保険適用されるのは糖尿病の治療に対してのみ。現在は美容クリニックなどが「やせ薬」として自由診療で処方しているのが実情である。それでも、糖尿病薬ダイエットのブームは衰えず、
「本来の2型糖尿病患者への供給を上回る需要が続いてGLP-1受容体作動薬の在庫が逼迫(ひっぱく)し、製剤の限定出荷という事態を引き起こしました。昨年秋にも、あらためて厚労省が適正使用に努めるよう各自治体にお達しを出し、また日本糖尿病学会も適応外使用を是としない見解を出しているのですが、状況は変わっていません」(医療ジャーナリスト)
先の砂山院長は、
「私のクリニックも、セマグルチド経口薬の治験に協力しました」
として、こう続けるのだ。
「現在のところ1回の最大投与量は14ミリグラムとなっていますが、これを50ミリグラムまで増やしたところ、15%程度の体重減少効果が確認できました。胃の一部を切除する手術に近い効果が期待できることもあり、今後は50ミリグラムの錠剤が発売されることになるでしょう」
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