Mrs. GREEN APPLE「コロンブス」騒動 ベートーヴェンの描写から感じ取れる「ロックのルーツとの遠い距離感」

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ルーツへのリスペクトを示したホール&オーツ

 筆者はホール&オーツにインタビューしたことがある。彼らもまたソウル・ミュージックにルーツを持つ人気デュオだ。アルバム「ドゥー・イット・フォー・ラヴ」の発売に合わせてセッティングされたインタビューの際、こんなことを聞いてみた。

「新作の中にはソウルの匂いがプンプンする作品がある。私は、あなたたち2人が自分たちの原点を再確認しているように思える。その原点を教えてほしい」

 この質問に、2人は次々とお気に入りのアーティストと曲を挙げ始めた。アイク&ティナ・ターナー、スピナーズ、テンプテーションズ、オージェイズ、サム&デイヴ、マーヴィン・ゲイ等々。

 そのほとんどがいわゆる黒人音楽だった。ダリルはこう語っていた。

「しかたがないよ。僕たちはドゥー・ワップやR&Bが盛んなフィラデルフィアで生まれたんだからね。フィリーは、特別な町なんだ。60年代にだって、僕たちの周りは、大ヒットしていたビートルズにも、ローリング・ストーンズにも、誰も強い関心を持たなかった。誰も彼もが、ドゥー・ワップやR&Bを聴いていたんだよ」

 こんな発言もあった。

「日本のリスナーの多くは、僕たちの80年代のヒット曲をポップなものだと思っているみたいだけど、実際はソウル・ミュージックの影響がかなりある。『マンイーター』のギターのリフやドラムなんて、明らかにモータウン・サウンドだっただろ?」

 発言の端々からルーツへのリスペクトが感じられたのである。

ルーツとの距離

 今の日本のロックは、ロックの起源からの距離が遠くなってしまったのかもしれない(もちろんすべてとは思わないが)。ロバート・ジョンソンやチャック・ベリーをビートルズやストーンズがリスペクトし、そのビートルズやストーンズにオアシスやコールド・プレイが憧れ、彼らの音楽を日本の若いバンドが聴き込み、そうした日本のバンドに影響された世代が、今新しい音楽を作っている。

 ロックのルーツから遠く離れたからこそ、日本だからこその新鮮な音が生まれている面があるのも事実だ。Mrs. GREEN APPLEも独自の魅力ある音楽を制作している。

 ただ、ロックの本質は薄まってもいるのかもしれない。本来マイノリティの味方だったはずのロックが、そうともいい切れないかたちになってしまっているのかもしれない。ルーツへのリスペクトも薄まりつつあるのかもしれない。今回のMVがそれを象徴する現象の一つだとすると寂しい気持ちになる。

神舘和典(コウダテ・カズノリ)
ジャーナリスト。1962(昭和37)年東京都生まれ。音楽をはじめ多くの分野で執筆。共著に『うんちの行方』、他に『墓と葬式の見積りをとってみた』『新書で入門 ジャズの鉄板50枚+α』など著書多数(いずれも新潮新書)。

デイリー新潮編集部

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