「3歳児は覚えてないからウィンウィン」と語る性加害者も… 性犯罪治療のプロが解説する小児性加害の実態 「日本版DBSは加害者を守るものでもある」
加害者を守るための制度でもある
プログラムを受けている小児性加害者に、「日本版DBS」について尋ねたところ、ほぼ全員が法案に賛成でした。彼らは引き金を避けプログラムで学んだ適切な対処行動を取って、毎日、慎重に暮らしています。日本版DBSという、職業を通して子どもに接近することを許さない制度は、彼らにとっても理にかなっているのです。子どもが目の前を通ったら目を閉じる、電車に子どもが乗ってきたら車両を変えるなど、彼らはトリガーを引かないよう、努力をして生きています。それは彼らがいつも行っている、当たり前の原理原則なのです。
日本版DBSは被害者を守るための制度ですが、回り回って、加害者を守るための制度でもあり、変わりたいと望む人にとっては非常に重要な制度であるというのが、プログラムを受けている方たちの意見といえます。
小児性犯罪者が再加害によって失うものの大きさ、病的なまでの子どもへの執着を見れば、「日本版DBS」の創設は、間違いなく必要であることが分かります。DBSはイギリスだけでなく、ドイツ、フランス、ニュージーランド、スウェーデン、フィンランドなどでも同じ取り組みがなされています。日本が手本にしたイギリスでは、1日2時間以上、18歳未満と接することのある職業の人は全員、性犯罪歴が確認されるほど厳しいものです。
優先すべきは「子ども」
罪を償った加害者のプライバシー、職業選択の自由に抵触するなどの指摘についてですが、加害者と被害者は決して対等ではないことを忘れてはなりません。加害者の加害行為克服の負担を被害者に求めてはならない。子どもを守ることと加害者の権利をてんびんにかけた時、優先すべきは「子ども」であることは明白ではないでしょうか。
成立目前の「日本版DBS」ですが、これは性犯罪の再加害防止の第一歩に過ぎません。
大きな議論になったのは、先に述べたように4年前のキッズライン事件ですが、加害者が性加害を行ったのはベビーシッター時より、キャンプ場のボランティアスタッフ時代の方が多かった。将来的には、行政の権限の有無や有償、無償を問わず、子どもと接するすべてのスタッフにこの制度を導入すべきだと思います。
日本版DBSの論議を機に、日本の小児性犯罪の深刻さについてわれわれはもっと目を向けていくべきではないでしょうか。「1 is 2(too)many」。子どもの性被害は一人であっても多すぎるのです。
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