「3歳児は覚えてないからウィンウィン」と語る性加害者も… 性犯罪治療のプロが解説する小児性加害の実態 「日本版DBSは加害者を守るものでもある」
「相手が3歳だと記憶に残らないから、ウィンウィン」
一方で、子どもは性的に無知ですから、性被害だとすぐには認識できず、後に交際した人と性行為をした時にフラッシュバックして初めて気付くなど、被害を自覚するまでにかなりの時間がかかるケースが多い。
当然ながら、性加害は、被害者に非常に深刻な心理的影響をもたらします。PTSDや解離性障害、うつ病などの精神疾患、不安症状、自傷行為やパニック障害など長期間にわたって、被害者を苦しめ続けます。声を上げている人は少数派で、ほとんどは家から出られなかったり、うつ病で希死念慮にとらわれて自殺未遂を繰り返したりしてしまいます。それだけではなく、被害に遭ったことで経済活動ができなくなり困窮するなど、負のスパイラルに陥るケースも多く見られます。「加害者には時効があるけど、被害者には時効がない」と被害者は言います。一生、性被害で負った傷に苦しむわけです。
対して、加害者側は自分の行為が性加害だと思っていない人もいる。
「どれだけの数、子どもに性加害をしてきたのか覚えていますか」。そう尋ねた時、逆に「先生は、今まで食べたパンの枚数を覚えていますか?」と聞かれたことがあります。パンは日常で当たり前のように食べますから、枚数など誰も覚えていません。彼らにとって子どもに性加害を行うのは、それと同じくらい当たり前の行為だということ。
また、別の加害者はこう言いました。
「私は、他の加害者とは違います。だって、挿入時はローションを使って、子どもが痛みを感じないように配慮しています。相手が3歳だと記憶に残らないから、ウィンウィンですよ」
彼らが罪の意識に希薄であることは、初めての加害行為から治療に来るまで平均して14年もかかることからも明らかです。
「小児」の2文字が…
こうした“認知の歪み”を抱えた当事者を治療するのは、非常に困難。
治療の柱は「認知行動療法」「薬物療法」「性加害行為に責任を取る」の三つに分かれます。
ハイリスクの人には月曜から土曜まで週6日、9時から19時までのデイナイトケアを約3年間行います。再加害しないライフスキルを身に付けるのは、ここまで高密度なプログラムに取り組んでいかねばならないほど難しいのです。
しかし、それでも再犯するケースは後を絶たない。
小児性愛障害者に聞くと、その衝動性や反復性は“別格”だと言います。吸い寄せられるように、子どもに近寄ってしまうのだと。
性犯罪の前科が2回以上ある人に絞って、同型の性犯罪の前科があるかを問うた調査では、小児わいせつ型の13人のうち、84.6%にあたる11人に前科があり、痴漢を除く強制わいせつ型の44.0%や単独強姦型の63.2%に比べて、小児わいせつ型犯罪には繰り返される傾向が強いことがうかがえます。電柱脇にある小児科の看板の「小児」という2文字がトリガーになると語った加害者もいました。
彼らが再加害をしないための有効な策は、それが可能となるようなハイリスクな状況を回避すること。「犯罪機会論」と言いますが、犯罪の動機を持った人がその機会に巡り合って初めて犯罪が起きる。動機をなくせなくても、その機会さえ与えなければ犯罪は起きにくい。小児性犯罪の場合は、子どもとの接点をなくすことが極めて有効な手段です。
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