イスラエルとパレスチナの「仲直り」のために実は日本が尽力してきたこと
ガザ危機がますます深刻化している。イスラエルとパレスチナがお互いの地位を認め、イスラエルは占領地域から暫定的に撤退するなど2国家共存を目標としたオスロ合意(1993年)から何と遠くへ来てしまったことか。
あまり知られていないが、じつは日本は2006年以来、この地域の関係改善を支える試みとして「平和と繁栄の回廊」という政策を打ち出し、パレスチナ、イスラエル、ヨルダンと共同で事業を行なってきた。
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この三者が顔を合わせて協力するのは、世界でも稀有(けう)な事業であったが、当時からさまざまなトラブルに悩まされてきたという。
果たして、日本の支援はどのような困難を抱えていたのか。JICA(国際協力機構)特別顧問で、国連での外交実務経験もある国際政治学者の北岡伸一氏の新著『覇権なき時代の世界地図』(新潮選書)から、2021年に書かれた記述を再編集して紹介しよう。
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日本が行なう支援事業
2006年、日本は「平和と繁栄の回廊」という政策を打ち出した。この地域の関係改善を支えようということだった。その中でも重要なのは、パレスチナでのジェリコ農産加工団地(JAIP:Jericho Agro-Industrial Park)の建設である。これは第1ステージで19.4ヘクタール、第2ステージで42ヘクタール、第3ステージで50ヘクタールにおよぶ農工業団地を建設しようというものである。
ここでは日本がパレスチナ、イスラエル、ヨルダンと共同で事業を行なっており、世界でも彼らが顔を合わせるところはここしかないほどだ。オリーブ石鹸、冷凍ポテト、ガラス製品など、いろいろな物を作っている。
しかし、そのために様々な材料や部品の輸入が必要である。それにはイスラエルのチェックを経なければならない。そして実にしばしば輸入が禁止され、あるいは遅れ、工場の運営は容易なことではない。持ち込んでもイスラエルの安全を脅かすことはあり得ないと思われるものまで、突然輸入が禁止される。こういう予測不可能性のあるところには、やってくる企業は少なくなる。
それ以外にも、JICAはいろいろなことを行なっている。まず難民支援である。西岸に106万人、ガザに162万人いるといわれる難民に対し、たとえば母子保健の支援を行ない、母子手帳を提供している。母子手帳は、同一の病院や保健所の継続的な利用が困難な環境下で重宝されている。それから廃棄物処理、水道、教育支援なども行なっている。また、将来の観光資源となる可能性の高いヒシャム宮殿遺跡の保護施設の整備も手伝っている。
日本の支援は、かつて世界の2~3位だったこともあるが、現在は5位くらいである。ちなみに、ノルウェーは日本とほぼ同じくらいの支援をしていて、外交的な努力だけでない貢献をしている。
パレスチナとの融和に舵を
私は、今回の視察でガザに行くことを計画していたのだが、直前に事態が緊張したため、中止せざるを得なかった。JAIPには難題が山積しているし、ガザでもまた衝突があって、私はやや悲観的な気分になっていた。そういうときに、国連中東和平担当特別調整官のニコライ・ムラデノフ氏と会った。彼はとにかく忙しいという。
「何が忙しいかわかるか? とにかくしょっちゅう事件があるんだ。それを飛んで行って、拡大しないように説得して押さえ込む。その連続で大変なのだ」という。そしてJAIPのことを激賞してくれる。あれが希望だ。あれがあるから前に進めると、こちらが恐縮するほど褒めてくれた。
それにしてもイスラエルのパレスチナ圧迫はひどい。パレスチナの若い世代は将来に希望をなくして、国外に出て行きたいと思っている。次はパレスチナとの融和、パレスチナ人の生活向上に舵を切るべきではないか。
【付記】2023年10月のハマスのテロに対しイスラエルは激しい反撃を加え、国際世論は変わりつつある。アラブ諸国のイスラエル接近にブレーキがかかり、アメリカのイスラエル支持も全面的ではなくなっている。24年アメリカ大統領選挙の結果、どうなるか予測は困難だが、イスラエルの一方的な勝利は難しくなっている。
※本記事は、北岡伸一『覇権なき時代の世界地図』(新潮選書)に基づいて作成したものです。