【虎に翼】「この大馬鹿たれ!」滝藤賢一が演じる多岐川幸四郎にはモデルがいる…どんな人物だったのか

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変人・多岐川はモデルも個性派

 多岐川にはモデルがいる。初代最高裁家庭局長の宇田川潤四郎さんである。寅子のモデル・三淵嘉子さんの直属の上司だった。

 滝藤が演じる多岐川は突拍子もない男だが、実は大きくデフォルメされているわけでなく、宇田川さんとよく似ている。

 まず2人ともチョビ髭がトレードマーク。宇田川さんはうれしいことがあると「うひょー!」と奇声を上げ、テレビドラマの悲しいシーンを観ると泣いた。

 細かな法律談義は苦手で、会議が始まると責任者でありながら真っ先に居眠りを始めてしまった(清水聡編著『三淵嘉子と家庭裁判所』日本評論社)

 宇田川さんをモデルにした多岐川を「虎に翼」で描く脚本担当の吉田恵里香氏と制作統括の尾崎裕和氏からは逃げない姿勢を感じる。宇田川さんが少年法改正反対のシンボル的存在だったからである。

 2022年に少年法は改正され、18歳と19歳は特定少年と称されることになり、従来の少年とは異なる扱いを受けるようになった。検察官送致され、通常の刑事処分を受ける可能性が高まった。ただし、この改正には反対意見も多かった。

 1970年、これに近い法改正を法務省が行おうとした際、体を張って反対したのが当時の東京家裁所長の宇田川さんである。改正案を見たときに宇田川さんは「現場の実務を知らない人の観念的机上論!」と叫んだという。

 宇田川さんはこの年、最高裁に法改正に反対する意見書を送ったあと、直腸がんで亡くなる。死の間際、見舞いに訪れた三淵さんの手を握り、「少年法改正と家庭裁判所のことが心配で、死んでも死にきれない」と言い残した。宇田川さんの執念が実ったのか、そのときの法改正は実現しなかった。

 結局、少年法は改正されたわけだが、今も賛否両論が渦巻いている。物議を醸しそうな人物やエピソードは扱わない現在の民放なら、避けて通るはず。エンターテインメント志向を強めていた少し前までのNHKもやらなかっただろう。

物議を醸すことを恐れない

 しかし、「虎に翼」は男女不平等問題からも民族差別問題からも逃げない。少年法についてもそう。ドラマとしての信念を感じさせる。視聴者の熱気や支持がほかのドラマと違うはずである。これは視聴率では測れない。ちなみにドラマが考え方を押し付けるのではなく、議論に値するテーマを提示するのは海外ドラマでは当たり前のことだ。

 ヒャンスクは1938年だった第28回、朝鮮へ帰国したが、48年の第53回から再登場した。ヒャンスク役のハ・ヨンスは韓国の釜山釜山広域市出身で、日本のドラマに出演するのは初めて。違和感をおぼえさせないが、それもそのはず。もともとスタジオジブリなどのアニメが好きだったことから、日本に早くから強い関心を持ち続け、日本語も学んでいた。

 現在33歳だが、韓国でのデビューは21歳だった2013年。ラブコメディ映画「恋愛の温度」に助演の1人として出演した。18年にはドラマ「リッチマン」に主演する。それでも日本志向が高まるばかりで、20代半ばから日本語の独学を始めていた。

 汐見を演じる平埜生成は2021年度下期の朝ドラ「カムカムエヴリバディ」の「ひなた(川栄李奈)編」に登場。条映太秦映画村の職員・榊原誠を演じた。榊原はひなたの友人・野田一恵(三浦透子)と結婚した。絵に描いたような善人キャラだったが、今回はどうなるか。

 今後、ヒャンスクに続き、華族だった桜川涼子(桜井ユキ)、その付き人として身分差を痛感させられていた玉(羽瀬川なぎ)、旧民法によって夫と妻の格差に苦しめられた大庭梅子(平岩紙)も登場するのは間違いない。

 憲法第14条によって、それぞれの人生はどう変わったのか、興味は尽きない。

高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ)
放送コラムニスト、ジャーナリスト。1990年にスポーツニッポン新聞社に入社し、放送担当記者、専門委員。2015年に毎日新聞出版社に入社し、サンデー毎日編集次長。2019年に独立。前放送批評懇談会出版編集委員。

デイリー新潮編集部

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