電気料金は7月から大幅値上げ…いま世界の天然ガス市場はどうなっているのか

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欧州の穴を中国で埋められないロシア

 6月2日付英フィナンシャル・タイムズは「購入予定量はシベリアの力2の輸送能力の一部にとどまっているにもかかわらず、中国は、取引価格を補助金により安価となっているロシアの国内価格に近づけるよう要求している」と報じた。

 中国の2030年時点の輸入ガスに対する需要は2500億立方メートルに達する可能性があるが、この量は既存のパイプラインによる供給やLNGによって大半が賄われると予測されている。中国としては、ロシアに妥協してまで新規のパイプライン契約を締結するメリットはなかったというわけだ。

 ロシアは欧州への供給減を中国への輸出拡大で穴埋めできない。そのことで大打撃を受けているのは、パイプラインで海外に天然ガスを供給している同国の国営天然ガス企業「ガスプロム」だ。

 ガスプロムが6月2日に発表した昨年12月期決算は、最終損益が6290億ルーブル(約1兆円)の赤字となった。最終赤字を計上したのは1999年12月期以来、24年ぶりとなる。赤字幅も過去最大だ。

 昨年上半期の売上高は前年比41%、ガス生産量は25%減少した。ロシア経済の屋台骨とも言える同社は、リーマンショックや新型コロナのパンデミックの時でも黒字を維持してきたが、今回の試練には抗うことはできなかった。

LNGの中東依存にはリスク

 ロシアはパイプラインによる供給からLNGへ軸足を移しつつあるが、西側諸国の制裁が災いして、今後4年間は輸出量が停滞する懸念も生じている(4月24日付ロイター)。

 西側諸国からは「憎きロシアにお灸を据えることができた」と歓迎する声が上がっている。だが、大輸出国だったロシアからの天然ガスの供給不調が長引けば、世界市場は供給余力を失い、ささいなことで価格が高騰するリスクが高まるだろう。

 ロシアの苦境を尻目にLNGの輸出大国カタールは大増産に動いている(4月16日付日本経済新聞)が、イスラエルとハマスとの間の紛争の長期化で中東地域の地政学リスクは高まるばかり。LNGの中東依存度が上昇することは好ましいことではない。

 天然ガスは安定供給が可能だと言われてきたが、今は昔。天然ガスも原油と同様、地政学リスクに左右されやすい戦略物資になってしまった感がある。残念ながら、予期せぬ国際情勢の変化などで天然ガス価格が再び高騰する可能性は排除できない、と言わざるを得ない。

 政府は世界の天然ガス市場の動向に、より一層の注意を払うべきではないだろうか。

藤和彦
経済産業研究所コンサルティングフェロー。経歴は1960年名古屋生まれ、1984年通商産業省(現・経済産業省)入省、2003年から内閣官房に出向(内閣情報調査室内閣情報分析官)。

デイリー新潮編集部

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