「これ以上やっても、過去の自分の焼き直し…」十年前の気づきがもたらした、杉山清貴の新しい可能性
「30周年を迎えて、全部やり切った」
そうして、長らくマイペースに楽曲を発表してきた杉山だが、2016年のアルバム『OCEAN』を最後に、自作曲中心のスタイルから離れ、外部の作家の楽曲を積極的に歌うようになった。
「ソロ・デビュー30周年を迎えて、全部やり切ったし、これ以上やっても、過去の自分の焼き直しになるだけだと思ったんです。それで、これからは、より自由な歌を歌おうと決めました」
結果、“新生・杉山清貴”を表現できるようになったのか、2017年のアルバム『Driving Music』以降は4作連続で週間TOP30入りをキープし、サブスクでの人気曲も大幅に増えたのは前回の記事で触れたとおり。特に2020年のアルバム『Rainbow Planet』は、実に28年ぶりのオリコンTOP10入りとなった。さらに、ランキング表から注目すべき曲を杉山に尋ねてみると、
「『FREEDOM』の曲も幾つか入っていて嬉しいですね。でも、『MY SONG MY SOUL』収録の第36位『月に口づけ』は、しっとりとしたピアノ・バラードで本当に良い曲だから、もっと上位にくるといいな。(作詞・作曲・編曲を手がけた)澤田かおりさんは、ドラマの劇伴をたくさんなさっている実力派なんですよ。このバラード、佐藤竹善くんなんかも“自分が作りたかったなー!!”って悔しがっていたくらい。確かに、こういう曲が作れたら、相当気持ちいいですからね」
ただ、最新アルバム『FREEDOM』では、少し事情が異なっていたようで、
「かおりさんには、『FREEDOM』でもお願いしようと思ったら、子育てで曲作りが難しいということだったんです。そこへ、プロデューサーがバラードを書ける方として紹介してくれたのが、『Steppin' In the rain』の神村紗希さんなんです。これも、歌っていて気持ちが良いんです!じっくり聴いてください」
そして、今年4月には Blu-rayソフト『Sugiyama Kiyotaka Band Tour 2023-Major Debut 40th Anniversary-』が発売された。本作は、前年のデビュー40周年を記念したバンド・ツアーのファイナルとなる東京公演を収録したものだが、驚くことに大ヒット曲はファンサービスとしてアンコール直前で歌った「さよならのオーシャン」のみ。最新アルバム『FREEDOM』収録の全曲を中心に、他のアルバム曲を数曲歌うという構成だった。ただ、実際に映像を観てみると、杉山がMCで楽曲の解説を入れるので、知らない曲でも心に入ってくるし、大人のムードに満ちたパフォーマンスに酔うことができる。これが今のベストなセットリストとして提示するのも納得だ。何より杉山が若いミュージシャン達と一体となって楽しんでいるのも、観ていて気持ちが良い。
「今回のセットリストの第一条件は、アルバム『FREEDOM』を全曲聴いていただくこと。そして、そこに合うオリジナル曲を他のアルバムから添えてみました。今までは、シングル曲を多めにやってきたのですが、今回はシングルを途中で持ってきたら、(互いの魅力が)ぶつかっちゃうかなと思って外しました。でも、ツアー中に時間をかけてお客さんを“洗脳”してきたので(笑)、皆さん喜んで聞いてくれましたよ」
アンコールには、昨年、音楽活動50周年を迎えた林哲司関連の楽曲、「永遠」(Spotify第21位)と「悲しみがいっぱい」(第50位)を歌うというのも、かなりユニークな構成だ。この2曲を歌ったのも、長年の音楽仲間である林哲司への敬意や感謝が込められているのだろう。
最後に、サブスクでのリスナーに向けたメッセージをお願いすると、
「今まで、良い音楽を作ってきたという自負があるので、もし気になったら、少しずつでも聴いてもらえたら嬉しいです!」
と笑顔で元気に答えてくれた。
本取材は、テレビ番組収録の合間に行ったのだが、とにかく終始爽やかで、また、近年のヒット現象にもじっくり耳を傾けるといった謙虚さにも心を打たれた。だからこそ、新たな音楽に取り組んで、それが確実にリスナーに届くものとなっているのだろう。彼の近年の作品を聴いていると、自分自身もまた、何か新しいことにチャレンジできるんじゃないかと勇気がもらえる。そういった点でも、近年の杉山清貴の作品にも触れてほしい。
(取材・文:人と音楽を繋げたい音楽マーケッター・臼井孝)