「若い人には僕らにないセンスがある」杉山清貴、“往年の名曲”に頼らない新曲のサブスク人気

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若い作家の楽曲を歌う

 ここまでのSpotify TOP3は、レコード売上の上位3曲と重なり、本人も予想できるランキングだった。だが、4位以下を見ると、第5位と第6位に最新アルバム『FREEDOM』から「Nightmare」と「Too good to be true」の2曲が、また第11位にその前作『Rainbow Planet』から「Omotesando'83」がランクインしている。サブスクでは、近年のアルバム曲が、大ヒットを連発していた時期の曲と拮抗しているのだ。『FREEDOM』の2曲は、アルバムからの先行リリースだったが、ベテラン・アーティストの場合、先行配信をしても必ずしも数字が伸びるとは限らない。だからこそ、これらはれっきとした人気曲と言える。しかも3曲はいずれも、作曲が若手アーティストで、作詞が杉山本人という、メガヒット時代とは異なるヒット・パターンとなっている。

 以下、1曲ずつ本人に紐解いてもらおう。まず、第5位の「Nightmare」は、余裕ある大人の包容力を感じさせる歌詞と、演奏や歌声のキレの良さが光るミディアム調の楽曲だ。

「(作曲の)Billy Takakuraくんの曲があまりにカッコよかったんで、自分で詞を書きたい!って言いました。デモテープにはメロディーだけが入っていたのですが、気に入ったものは大抵 “ハマればカッコいい!”って言葉が浮かんでくるので自分で歌詞を書いちゃいます」

 第6位の「Too good to be true」は、♪Too good to be true 人生は思いがけない偶然が重なり合い 今を生きてる~ というサビの歌詞と、穏やかな高音ボーカルが印象的で、思わず早歩きしたくなる爽快なアップテンポの楽曲。どんな逆境の人生になっても、相手を愛し続けるという言葉も安定した歌声ゆえに説得力がある。

「これも、(作曲の)福田直木くんから曲を聞かせてもらってすぐにフレーズが浮かびました。相性があるんでしょうね!」

 そして、第11位の「Omotesando‘83」(作曲:松下昇平)は、80年代の陽気なフュージョン系のサウンドと、オメガトライブ時代の自伝的な歌詞がマッチしていて、当時の街角をゆったりと歩いているような心地よさがある。

「83年のデビュー当時の想い出を歌っています。当時の事務所が、表参道、骨董通りの突き当たりにあって、よくメンバーと近所の『パイドパイパーハウス』というレコード屋に通って楽しかったんですよ。僕らは横浜生まれだから、多摩川を渡って東京に来て“やったぜ、東京ー!”って浮かれていましたね(笑)。『パイドパイパーハウス』は輸入盤がメインで、店主の趣味で珍しいアルバムがたくさんあって。その時のキラキラした感じを曲に乗せたくて、これも自分で詞を書きました」

 近年の杉山は、30代から40代という、自分より若い作家の楽曲を多数歌っている。興味深いのは、若手にもかかわらず、シティ・ポップと呼ばれるアーティストの作品にも通じる所もあり、それでいて、サクサクと聴ける感覚は、令和のヒット曲にも通じるところがある点だ。この絶妙なバランスは、杉山からのリクエストなのだろうか。

「いえいえ、こちらからは、何も言っていないですよ。今、こんなに高いクオリティの曲を書ける人達が本当に多いんですよ。若い人たちって、僕たちには出来ないようなセンスがあって、だからこそ今は積極的に彼らとコラボしていますね。でも、こうやって初期のヒット曲と新曲が並んでいるのは凄い。嬉しいです!」

 この“懐かしくも新しい”作風も、いつまでも若い杉山の歌声もあって、全体としてエバーグリーンな雰囲気が漂っている。既に大きな成功をおさめてきた杉山が、異なる世代との交流によって新たな人気曲を生み出していることは、中高年世代が生き抜くための何らかのヒントにもなりそうだ。

 ソロ部門の人気曲考察第2弾では、さらなる人気曲について深掘りしてみたい。

(取材・文:人と音楽を繋げたい音楽マーケッター・臼井孝)

杉山清貴(すぎやま・きよたか)
神奈川県出身、1959年7月17日生まれ。1983年から1985年、杉山清貴&オメガトライブとして数々のヒットを飛ばした後、1986年にシングル「さよならのオーシャン」でソロ・デビュー。ソロでも「最後のHoly Night」「風のLONELY WAY」「僕の腕の中で」などヒット曲多数。2023年に、デビュー40周年記念として、オリジナル・アルバム『FREEDOM』と、ベスト・アルバム『ALL TIME BEST』を同時発売。2024年は、杉山清貴&オメガトライブで全国ツアーを実施。Instagramは@islandafternoon

臼井孝(うすい・たかし)
人と音楽をつなげたい音楽マーケッター。1968年、京都市生まれ。京都大学大学院理学研究科卒業。総合化学会社、音楽系の広告代理店を経て、'05年に『T2U音楽研究所』を設立し独立。以来、音楽市場やヒットチャートの分析執筆や、プレイリスト「おとラボ」など配信サイトでの選曲、CDの企画や解説を手がける。著書に『記録と記憶で読み解くJ-POPヒット列伝』(いそっぷ社)、ラジオ番組『渋谷いきいき倶楽部』(渋谷のラジオ)に出演中。データに愛と情熱を注いで音楽を届けるのがライフワーク。

デイリー新潮編集部

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