キムタク主演「Believe」“既視感”の正体は? テレ朝ドラマの「要素かぶり」がひど過ぎる

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 橋梁工事の事故で衝撃の初回、しかも主人公が罪をかぶって刑務所に。ムショモノは大好物だし、出だしは好調かと思ったが、なんだか既視感と違和感に襲われる。「Believe」の話である。

 今期、TBSは記憶喪失に頼りっぱなしだし、テレ朝ではこれが「余命・身代わり・脱走」で、「Destiny」とちょいちょいかぶっているんだよな。局内同クールの横文字ドラマ2作で、内容を精査しないのかな。かぶったとしても視聴者は全部のドラマなんか観ちゃいないからと高をくくっているのか。損している気もするんだけどな。最近のテレ朝が陥っているのは「初回、誰かが突然死ぬ」「客寄せは成功、それですべて」「中だるみで客離れ」という定番だ。ということで、既視感の正体は要素かぶり、では、違和感の正体は?

 木村拓哉演じる主人公は大手ゼネコンの設計者でいわゆる橋オタク。任されていた大きな橋の建設工事で崩落事故が起こり、死者も出る(外れたケーブルにふっとばされたのは誰かと思ったら竹内涼真)。知らぬ間に強度偽装が行われていたことが分かるが、社長(小日向文世)は隠蔽(いんぺい)を指示。事故なら業務上過失致死傷で執行猶予がつく、会社を守るために罪をかぶってほしい、必ず名誉は回復させると懇願。キムタクは背負ったはいいが、結局実刑をくらう。

 妻(天海祐希)は何も知らされず、夫婦の心の距離を縮めることもできないまま、犯罪者の妻とされた怒りがある。しかも自分はがんに侵されて転移も発覚、もって1年と言われた妻は離婚届を出すという。ムショでそれを聞いたキムタクは、いまさらながら無実を証明しようと画策。弁護士(謎の多汗キャラとしてぬらぬらした斎藤工)に打診するも、証拠を持つ部下(一ノ瀬颯)は海外赴任間近。無罪を証明しようと無謀にも脱獄。

 ショーシャンク的理不尽な刑務官(尾上寛之)や受刑者(一ノ瀬ワタル)にいびられたのも束の間、なぜか刑務所の区長(上川隆也)が狂言かまして脱獄を手助けしてくれるっつう。そして、死んだはずの竹内涼真はチャラついてオラオラした刑事として再登場、事故の被害者とは離れて育った兄弟という奇天烈設定で、執拗(しつよう)に追ってくるっつう。

 まず、オタクや人たらしの要素に説得力がない。なれ合いを挿入するも、残念ながら夫婦に見えない。奥さんと呼ばれることすら嫌う妻に、手紙でもお前呼ばわりの夫に小さな違和感。妻のための行動が妻にとっては大迷惑、のはずが夫婦愛の美談に仕上げそうな懸念も。社会的には四面楚歌の割に救いの手が多くて、そもそも脱獄しておきながら再審請求で無実を証明できるかっつう矛盾をしれっとすっとばすところもモヤモヤする。罪に罪を重ねるという、知的でも理性的でもない行動に味方がつくことに疑問。こうなったら、ぬらぬら工と狂言上川の暗躍に期待したいところだ。

 結局、都知事(賀来千香子)が絡み、公的権力の横暴への義憤でまとめて、ちゃんちゃんと締める音まで聞こえてきそうな気配だが、惰性で最後まで見届けよう。

吉田 潮(よしだ・うしお)
テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビドラマはほぼすべて視聴している。

週刊新潮 2024年6月13日号掲載

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