NHK朝ドラ「ヒロインはどう決めるのか」「ギャラは本当に安いのか」…テレビ業界のナゾについて当事者に聞いた
物語より先にヒロインが決まることはない
朝ドラの作品概要は制作統括と脚本家の間の話し合いによって固まる。先にヒロインが決まることはない。あくまで作品に合った女優を起用するからだ。先に主演を決めてしまうことが多い民放のドラマとは全く違う。
2023年度下期の朝ドラ「ブギウギ」のヒロイン・趣里(33)の場合、2471人が応募したオーディションで選ばれたので、制作統括との縁は関係ない。しかし、「らんまん」(同上期)に主演した神木隆之介(31)はやはり制作統括に見込まれた。
「らんまん」の制作統括・松川博敬氏と神木は2018年の連続ドラマ「やけに弁の立つ弁護士が学校でほえる」で組んでいる。神木が主演作だった。また、「らんまん」の脚本を手掛けた長田育恵氏と松川氏は21年の連続ドラマ「流行感冒」で組んでいる。
制作統括が初顔合わせの女優をヒロインに起用するケースは数少ない。
「演技力が把握できていませんし、コミュニケーション面でも不安が生じますから」(同・朝ドラの制作統括経験者)
慣れたチームで朝ドラをやる。象徴的なのが、「おかえりモネ」(2021年度上期)のケース。ヒロインの清原果耶(22)、脚本家の安達奈緒子氏、制作統括の須崎岳氏の3人は連ドラ「透明なゆりかご」(18年)で一緒だった。
「透明なゆりかご」はドラマ各賞を獲り、清原も高い評価を得た。この時点で、同じチームでの朝ドラ制作が確実視されていた。
朝ドラを担当するくらいの実力とキャリアのある制作統括に評価されないと、オーディションを経ない限り、朝ドラのヒロインとなるのは難しい。その少ない例の1つが、10月からの次回作「おむすび」のヒロイン・橋本環奈(25)である。
橋本のNHKドラマへの出演はスペシャルドラマ「戦争童画集 ~75年目のショートストーリー~」(2020年)しかない。しかし、「おむすび」はヒロインが栄養士を目指すギャル風の女性で、なおかつコメディタッチであることから、白羽の矢が立った。いつも通り、先に作品の概要が固まっていた。
2025年上期の朝ドラ「あんぱん」は今田美桜(27)がヒロインを務める。制作統括は倉崎憲氏。今田はオーディションで決まったものの、倉崎氏がプロデューサーの1人だった「おかえりモネ」に出ていた。やはり制作統括としては演技力を知っている女優のほうが安心なのだ。
次に朝ドラを含めたNHKドラマのギャラは安いのか。これは大手芸能事務所の幹部に聞いた。
「安い。民放の5割以下」(大手芸能事務所)
民放の1時間ドラマ(実質約47分)に主演すると、ギャラは1回当たり100万円強から300万円程度。一方、NHKは大物でもその半分以下。4、5番手の俳優は民放でも1回20万円以下だから、NHKでの助演俳優はかなり厳しい。
「それでもNHKのドラマは脚本も演出も民放とは比較にならないほどしっかりしているから、俳優には魅力的なんです。また、1980年代までは『朝ドラと大河ドラマに主演中はCMに出てはならない』という暗黙のルールがあったものの、それがなくなったので、割り切ってCMで稼ぐという道もある」
伊藤沙莉も4月に「虎に翼」が始まる前から「サントリー『伊右衛門プラス おいしい糖質対策』」や「マクドナルド(夜マック)」などに出演中。大ヒット中の「虎に翼」は視聴率が個人で10%以上、世帯で18%以上の日もあり、伊藤の好感度も爆上がりしているから、スポンサーはホクホク顔に違いない。
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