ルフィに操られて強盗に加わり最後は”置き去りにされた男”に「懲役10年」 男はなぜ闇バイトに手を出したのか

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 2022年12月、フィリピンの収容所にいた詐欺グループの指示で起きた中野強盗傷人事件。この事件に実行役として加わった男の裁判員裁判が、5月20日から31日まで東京地方裁判所で開かれた。男に下された判決は懲役10年の実刑判決。傍聴席から見えてきたのは、困窮のあまり闇バイトに手を出し、使い捨てられた男の哀れな末路だった。

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1000万円の札束が撒き散らかった路上に一人置いてきぼり…

 いがぐり頭に黒縁メガネをかけた被告は、緊張した面持ちで法廷に現れた。大柄だがボテッとした体躯、ずんぐりとした顔つき。その気弱そうな表情からはとても「強盗傷人」というおそろしい罪名が浮かんでこない。

 むしろ想起されたのは、テレビにも映されたあの“マヌケ”な連行シーンだ。一昨年の師走、東京都中野区の閑静な住宅街の一角で起きた事件で、和野正弘(36)は車で逃走した犯人グループの中で置いてきぼりにされ、駆けつけた警察官に確保された。和野が確保された路上には、慌てて逃げ去った犯人グループが落としていった1000万円以上の札束が撒き散らされていた。

 この事件に実行犯として参加した和野は、被害者の男性に全治14日間の怪我を負わせ、約3200万円の現金を強奪した罪に問われ、裁判員裁判にかけられた。

キムから「男を泊めたら5万円の報酬」やってきた男は…

 初公判で証言台に立った和野は「私のやったことに間違いありません」と起訴事実を認め、量刑が争点となった。

 検察側の冒頭陳述や共犯者の供述調書などで明らかになったのは、みず知らずの男にいいように操られながらずるずると闇に落ちていった和野の転落ぶりだった。

 22年11月初旬、和野は生活に行き詰まって「闇バイト」サイトにアクセスする。そこで氏名不詳者から「報酬100万円の闇バイトがある」と勧誘を受け、指示役の「キム」を紹介された。

 キムはマニラのビクータン収容所にいた渡辺優樹と藤田聖也が使っていたハンドルネームである。

 以降、和野はキムに言われるまま秘匿性の高い通信アプリ「テレグラム」を介して連絡を取るようになった。

 同月13日、キムからの「ある男を自宅に泊めたら5万円の報酬がある」との依頼に和野は応じ、知らない男を自宅に泊めた。この後一緒に事件を起こすことになる永田陸人だ。永田は中野事件後も、広島県広島市、千葉県大網白里市、東京都狛江市と次々と凶悪な強盗事件に加わった実行役の中でもっとも悪名を轟かした男である。

 和野は永田を自宅に泊めた翌14日、キムの指示で運転手役を務めた男と3人で神奈川県秦野市へ空き巣に入り、高級腕時計など計64点(時価合計約878万円相当)を盗むことに成功。だが、キムは「価値がないものだった」という理由で報酬の支払いを拒否し、永田を泊める条件だった5万円も反故にされた。

 普通の人間ならばもう2度と関わらないと思うところだが、和野は3週間後、キムからテレグラムを通して持ちかけられた「次のヤマ」に参加してしまう。それが中野事件だった。

次ページ:スピーカーモードで車中に流れたキムからの「指示」

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