前科は「セクシー田中さん」だけにあらず 調査書公開で分かった「日テレがヒットドラマを作れなくなった理由」

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過去にはNHKも裁判に 「実写化すればテレビ局のもの」という意識と日テレの前科の数々

 日テレの報告書では、テレビ局は「原作を何ら改変しないことは基本的にないという考え方が標準的」であり、「ドラマという映像コンテンツはあくまでもテレビ局の作品」と説明があった。

 その象徴のような出来事として、2009年には辻村深月さんの小説「ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。」のドラマ化をめぐり、NHKが講談社を相手取って撮影経費約6000万円の支払いを求めた裁判が起きている。辻村さんが脚本の内容を見て不安を抱き、版元の講談社が白紙撤回を申し入れたところ、NHKは「第三者が口を出」す「ほとんど検閲」だと抗議。最終的にはNHKが敗訴し、後に和解している。

 一方、出版社の認識はテレビ界とは異なる。原作者をはじめ「利用許諾者」であり、制作者と「落としどころを調整するようなものではない」のだ。報告書では「原作作品の設定やフォーマットだけ利用して、ドラマの内容は制作側が自由に改変できると考えているように見受けられた例が多数ある」との苦言も見られた。脚本家がたとえ「原作に忠実に」という条件を知らなかったとしても、もともと著作権法上改変は許されないことだ、と小学館の報告書は言い切っている。

 そして日テレが原作者からNOを突きつけられるのは、「セクシー田中さん」が初めてではない。2008年の「おせん」は、原作者のきくち正太先生が「原作とのあまりの相違にショックを受けたために創作活動をおこなえない」と連載を中止したほど。2022年の「霊媒探偵・城塚翡翠」では、原作者の相沢沙呼さんのせいで脚本家降板や撮影トラブルを招いたと報じられたが、相沢さんは〈約束通りにしてもらうこと、原作を護るためにしたこと、そうした諸々の奮闘が「揉めてる」「口出し」「我が儘」みたいに悪く表現されたときが凄く哀しかった〉とXに投稿した。さらに現在放送中の「ACMA:GAME アクマゲーム」も、原作者のメーブさんが「ちょっと流石に不明なこと、はっきりしないことが増えすぎて、7話は楽しめなかった…」とコメント。日テレは沈黙を貫いている。

日テレお得意のジャニーズ起用や王道展開はもう通用しない 「直接話し合えば分かる」というズレた短絡思考

 原作者の納得がいかない改変を繰り返す日テレ。そこには、原作者だけでなく視聴者のことも軽視しているおごりが感じられる。

 ジャニーズが出れば見るでしょ? やっぱり恋愛展開も見たいよね? ヒロインはちょっとおバカでかわいい子が一番! そういう「王道」のタレントや展開でないと視聴者が離れると、勝手に思い込んでいやしないか。そして原作者の意に沿わない改変を得意満面で行って、結局視聴者からも信頼を失うことを繰り返してきたのではないか。原作の「セクシー田中さん」が、ありがちな展開やキャラ設定を避けていてもあれだけ魅力的だったのは、読者の「読み取る力」を信じていたからなのに。

 それでも日テレは、どうしても「コミュニケーション不足」を原因にしたいらしい。今後は「原作者とも直接会う」ことが解決の一助になると考えているようだ。「現場で直接話し合えば分かる」という、これもまた悪しき現場主義の一つに見える。

 日本シナリオ作家協会が発信した動画では、「私は原作者の方には会いたくない派」「対峙するのは原作であって、原作者の方は関係ない」と発言した脚本家もいた。そんなアウェーの場所に行き、あとで「難しい人」と背中から撃たれるようなまねをしたい作家がいるだろうか。

 日テレは試しに、24時間テレビで「セクシー田中さん」調査の再現ドラマを作ってみてほしい。どれだけ空っぽで尺が足りなくなるか分かるだろう。きっとドラマ界に一石を投じるはずだ。

冨士海ネコ(ライター)

デイリー新潮編集部

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