前科は「セクシー田中さん」だけにあらず 調査書公開で分かった「日テレがヒットドラマを作れなくなった理由」
日テレはテレ朝に「視聴率王」の座を譲ったが、その背景には同局でヒットドラマが作られなくなったことがあるという。【冨士海ネコ/ライター】
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12年守り続けてきた視聴率三冠王の座を、ついに昨年テレビ朝日に奪われた日本テレビ。といっても今やテレビをリアルタイムで見る人も減り、各局とも配信コンテンツの再生回数の方が大事な時代である。有利なのはドラマが強い局だが、日テレは分が悪い。「家なき子」や「ごくせん」で平均視聴率20%超えをたたき出したのも今は昔。土日の10時台枠は、2020年以降は「トップナイフ ―天才脳外科医の条件―」を除いた全ての作品が平均視聴率10%以下と振るわない。「相棒」や「ドクターX」など刑事・医療ものに強いテレビ朝日や、「VIVANT」「アンチヒーロー」など骨太なオリジナルドラマで話題になるTBS、生方美久さんという若きヒットメーカーを囲い込んでいるフジテレビに比べると、やはり勢いや話題性に欠ける。
日テレは、なぜドラマが弱いのか。その理由は、先日公開された「セクシー田中さん」調査報告書に表れている。一言で言うと、原作者でも法律でもなく、制作現場の「慣例」や身内の「お気持ち」を一番に優先する「過剰な現場主義」、ではないだろうか。
ドラマ化における前提の条件や契約発生日の認識の食い違いが「ミスコミュニケーション」の一言で片付けられているが、報告書では出版社とも脚本家とも契約書を結ばないまま撮影が行われたことが明かされた。小学館の報告書を合わせて読むと、改変について小学館と原作者双方の同意が必要と書いた契約書のひな型を、日テレ側は小学館のみの合意に変更して返してきたという。小学館は原作者の同意なしはあり得ないと返したようだが、原作者の言う通りにやってもつまんねーから、という日テレのおごりのようなものを感じる。
そもそも原作者の芦原妃名子先生が何度も伝えたはずの「原作に忠実に」との要求を、脚本家は一貫して「聞いていない」と小学館のヒアリングに答えている。原作者の修正指示については、直接読むのがつらいため、プロデューサーがそしゃくしてから伝えるよう依頼していたという。業界の慣例のようだが、日テレ側は顔の見えない原作者の言葉を正しく伝えるより、よく顔を合わせるベテラン脚本家の機嫌を優先する時もあったのではないだろうか。なお脚本家との契約書も放送後に結ぶのが通例とはいえ、それが炎上を招いたSNS投稿を防げなかった一因であることは、日テレも認めている。
プロデューサーの落ち度はこれにとどまらない。原作者から修正を要求された箇所を「撮影済み」だとうそをついた。後に撮り直しはしたものの、小学館によれば、ベリーダンスの歴史的・文化的背景からあり得ない衣装のシーンだったという。
撮影さえ始まってしまえばこっちのもの、原作者よりも現場の「慣例」や関係者の「お気持ち」が大事。一つのコンテンツを永久に葬った原因はミスコミュニケーションなどではなく、日テレ制作者のおごりと言っても過言ではないのではないか。
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