「ふたりの夏物語」大ヒット直後に解散… 杉山清貴が語る「オメガトライブ」今も褪せない輝き

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いまは「ほとんどコンサートでもやっていない」 ブームで異なる受容

 Spotify第2位は、なんと4thアルバム『ANOTHER SUMMER』収録の「DEAR BREEZE」。累計再生回数が、1千万回を超えているのは、「ふたりの夏物語」と「DEAR BREEZE」の2曲のみなので、いかに、現在のシティポップ・リスナーに愛されているかが分かるだろう。

「へぇ~!!多分、これは曲調が良いんでしょうね。完全にシティポップのど真ん中で、そう考えると大人気というのも分かります。当時は、こういうテイストのAORが海外で流行っていたので、それをオメガトライブがやるんだ、くらいの気分で演奏していました」

 この曲も、バンドメンバーではなく、林哲司による作曲。メンバーは彼の存在をどのように捉えていたのだろうか。

「そもそも、僕らがデビューする条件として林哲司さんを作家として提示されたのですが、林さんが洋楽志向というのもあって、僕らは了解したんです。これがもし別の作曲家の方だったら、デビューしなかったかもしれない。林さんの曲は、松原みきさんの『真夜中のドア~Stay with me』や、竹内まりやさんの『September』など、デビュー前から“これまでの歌謡曲じゃない人が出てきたんだ”と注目していましたから」

 また、第2位の『DEAR BREEZE』のほかに、第4位にも2ndアルバム『RIVER’S ISLAND』収録の同名タイトル曲が上位入り。いずれも作詞は、おニャン子クラブで大ブレイクする前の秋元康が手がけている。

「本当だ!この曲も、派手さが受けているんじゃないでしょうか。当時のブラックコンテンポラリーな洋楽を意識したんでしょうね。でも、この2曲はほとんどコンサートでもやっていないと思いますよ(苦笑)。『DEAR BREEZE』は、85年のアルバム『ANOTHER SUMMER』に収録されていて、解散のラスト・ツアーでしか演奏するチャンスもなかったし、こういうミディアム調の楽曲自体、コンサートでも息抜き的な位置でしたからね。それがサブスクではこんなに人気ということは、当時の日本と、今のシティポップ・ブームでは求められ方が違うんでしょうね」

 ちなみに、以前、同じく林哲司作品を数多く歌ってきた菊池桃子に、Spotifyで圧倒的な人気となっている 『Mystical Composer』というミディアム調の楽曲について尋ねた際も、それまでほとんど人気を意識してこなかったと語っていた。当の林本人も“アルバムの中で箸休め的な存在だった”と驚くほど。それほどまでにヒットの傾向が変化しているのだ。

 なお、当時の秋元康について尋ねてみると、

「詞の内容に関してはプロデューサーの藤田さん(藤田浩一、2009年死去)の一存で、秋元さんも作詞のためにホテルで缶詰めにさせられていました。僕らが秋元さんにこうしてほしいとか言うこともなく、“お疲れ様です!”って陣中見舞いでデザートを持っていってたくらいですよ(笑)」

 近年、オメガトライブのレコーディングでは、バンドのメンバーではなく、プロのスタジオ・ミュージシャンが起用されていたことも明かされた。それだけ徹底した楽曲制作をしてきたことが、バンドを短命にしてしまった反面、今なお世界的に愛されていることに繋がっているのだろう。

 次回は、デビュー曲『SUMMER SUSPICION』や幻のデビュー曲について語ってもらおう。

(取材・文:人と音楽を繋げたい音楽マーケッター・臼井孝)

杉山清貴(すぎやま・きよたか)
神奈川県出身、1959年7月17日生まれ。1983年から1985年、杉山清貴&オメガトライブとして数々のヒットを飛ばした後、1986年にシングル「さよならのオーシャン」でソロ・デビュー。ソロでも「最後のHoly Night」「風のLONELY WAY」「僕の腕の中で」などヒット曲多数。2023年に、デビュー40周年記念として、オリジナル・アルバム『FREEDOM』と、ベスト・アルバム『ALL TIME BEST』を同時発売。2024年は、杉山清貴&オメガトライブで全国ツアーを実施。Instagramは@islandafternoon

臼井孝(うすい・たかし)
人と音楽をつなげたい音楽マーケッター。1968年、京都市生まれ。京都大学大学院理学研究科卒業。総合化学会社、音楽系の広告代理店を経て、'05年に『T2U音楽研究所』を設立し独立。以来、音楽市場やヒットチャートの分析執筆や、プレイリスト「おとラボ」など配信サイトでの選曲、CDの企画や解説を手がける。著書に『記録と記憶で読み解くJ-POPヒット列伝』(いそっぷ社)、ラジオ番組『渋谷いきいき倶楽部』(渋谷のラジオ)に出演中。データに愛と情熱を注いで音楽を届けるのがライフワーク。

デイリー新潮編集部

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