「AIスピーカーと同居」「ネット上に友達がたくさん」 89歳の世界最高齢プログラマーが伝授するシニア世代の「デジタル生活」 櫻井よしこ×若宮正子

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「女は受けられないのか」と聞いてみると…

櫻井 お父様が勤められた三菱マテリアルは、戦時中に強制労働があったとして中国と今も争っている部分がありますが、日本を支える非常に大きな企業だった。そこへお勤めのお父様の下に育った正子さんは、高校を卒業してから当時の三菱銀行にお入りになった。

若宮 進学を考えてもいたのですが、まだ女性が大学に進むのは珍しく、大卒でも会社からポストを与えられない時代でしたから、高卒で働くのもいいのではと思ったのです。

櫻井 もともと銀行の業務に興味があったんですか。

若宮 父親も定年を迎えて、進学するなら奨学金が必要でしたし、どちらかといえば高給だったから選んだという面が大きかったですね。

櫻井 入行されてからは昇進もされ、さまざまなポストも経験されましたね。

若宮 あの時代、昇進試験は男が受けるものという風潮が支配的でしたが、試しに私は人事部で「女は受けられないのか」と聞いてみたんです。そうしたら係の方がいろいろと規則を調べてくれて、特に男女については書いていないが、昇進試験には参考書が必要で女性社員には配布されていない。読まないと絶対不利なんだけど、その方が小声で「僕が使っていたお古があるから差し上げますね」と言ってくれたんですね。

櫻井 本当にいい方ね。

若宮 理解のある方がいてくださったことが幸運で、私もいけしゃあしゃあと試験を受けて。銀行ですから財務や経営管理、税務もあったと思うのですが、もう片っ端から猛勉強でした。

お札を素早く数えることもできなかった

櫻井 最終的には管理職になられた。

若宮 ちょうど男女雇用機会均等法が成立して、大企業も女性の上役を出さないと格好がつかない。そんな時流にうまく乗っかっただけだと思います。

櫻井 誰もが思いつかなかったことを、やってみようと思う気持ちがスゴい。自分で勉強して新しい世界を切り開く。それがデジタル技術の習得にもつながっていったわけですね。

若宮 やりたいと思ったら、すぐに体が動いてしまうだけなんです。

櫻井 若宮さんは前向きな気持ちだけでなく、現状を的確に分析されて論理的に考える。極めて理系女子、「リケジョ」の考え方をお持ちでらっしゃる。

若宮 その当時を振り返れば、やっぱり女性たちも“どうせ私たちは女だから”とか、“頑張っても先が見えている”という気分が支配的でしたが、私は勉強も嫌いじゃなかった方なのでトライだけはしてみようという気持ちでした。それでも銀行という職場は、店頭セールスで実績をあげて組織の役に立った方が随分いましたし、そういう方々こそが偉いと思います。私なぞが管理職になってしまって、という気持ちは今でもあります。入行当時、私は手先が器用ではなく素手でお札を素早く数えることもできない。ソロバンも満足に扱えず「仕事のできる社員」とはいえませんでした。ところが、お札を自動的に数える技術が生まれると、そうした業務は機械に取って代わった。技術の進歩で環境や会社の評価はいくらでも変わることを実感しました。どんな時でも、現状を悲観することはない。そのことに気付けたのは大きかったと思います。

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