棋聖戦第1局は藤井八冠の先勝 15年ぶりのタイトル戦復帰でファンが山崎八段に期待したこと

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初代叡王

 山崎は升田幸三名人(1918~1991)を生んだ広島県の出身で、森信雄七段(72)の門下。兄弟子には29歳の若さで病に倒れた村山聖九段(段位は追贈=1969~1998)、弟弟子には元竜王の糸谷哲郎八段(35)がいる。

 2015年に初代の叡王となった山崎だが、叡王は17年にタイトルとなったので残念ながら未だ無冠。その他、NHK杯で2回、新人王戦で2回の優勝を誇るなど、輝かしい戦績を持つ。ここ2、3年は少し調子が悪かったが、、今期は棋聖戦の前まで7勝無敗と絶好調だった。

 棋聖戦の第1局は「山崎ワールド」は影を潜め、極めてオーソドクスな展開となる。

「あまり思いつかない手」を繰り出した山崎

 先手は山崎。午前9時、立会人の深浦康市九段(52)が「始めてください」と宣言すると、視線を三度ほど上げて藤井を見たあとおもむろに「2六歩」を指した。あたかも「今日の相手は本当にタイトル戦の藤井八冠だ。嘘じゃない」と確認するかのようだった。

 互いに飛車先の歩を進める相掛かり模様。ABEMAで解説していた石田直裕五段(35)が「先手(山崎)は桂馬、後手(藤井)は銀を活用していく自然な手」と話していた。驚くような手はない。しかし、山崎が41手目に最下段に据えていた飛車を「2六」に持ってくると、「あまり思いつかない手ですね」と話した。下段にもっていく前に指すならともかく、手損にも見える。実は、その手が相手の角打ちから自分の桂馬の頭を守る一手でもあることを説明していた。

 山崎は矢倉模様。これに対し後手の藤井は玉を広く囲う。山崎は勝負をかける。37手目に「7五歩」として局面を動かす。

 しかし、藤井は落ち着いて対応する。隙を見て3筋から一気に攻勢に出る。桂馬の頭を攻められて、角を6筋に据えられると、山崎はうまく攻められなくなる。角を1筋や4筋へ展開させるものの、うまく対応しきれないうちに藤井はリードを広げていく。

 山崎は先に4時間の持ち時間を消費し、1分将棋に追い込まれる。90手目に「8八銀」で王手をかけられると、山崎は「負けました」と頭を下げた。午後6時38分。

15年前の思い出

 本来、山崎は玉を早めに「8八」に持っていけば矢倉が完成して堅陣になるはずだったが、そこに行くまでに潰されていた。

 ABEMAで解説していた北浜健介八段(48)は「やはり『7五歩』とした後、藤井棋聖が『4三銀』と引いたのがポイント。これで少しずつ山崎さんの構想が想定外になっていったのでは。陣形を整備させず、藤井さんが山崎さんに立て直す余裕を当てなかった」と話した。

 余談だが、ABEMA中継では田嶋尉氏(40)が面白いエピソードを紹介していた。

 15年前の王座戦でのこと。挑戦者の山崎が王座の羽生九段に挑んだ時、田嶋氏は時計係をしていた。対局中、山崎は飲み物の入った容器の蓋が固くて開かなかった。「ちょっと女将さんを呼んでください」と山崎から頼まれた田嶋氏が飲み物を受け取ってやってみると簡単に開いたので「はい」と返した。すると山崎は急にうなだれてしまい、「飲み物も1人で飲めないんじゃ将棋が勝てるはずない」とつぶやいたという。目の前に対戦相手の羽生九段がいたにもかかわらずである。隠せない性格なのだろう。

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