時代劇ではギラギラ俳優だった…中尾彬さんが時代劇研究家に語った役者の極意とは

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「暴れん坊将軍」ではライバル・徳川宗春で注目

 時代劇の当たり役となったのが「暴れん坊将軍」(78~96年・テレビ朝日)の徳川宗春だった。

 八代将軍の座を紀州徳川家の吉宗(松平健=70 )に奪われたことを恨みに思う宗春は、ことあるごとに吉宗の失脚を狙う。78年の第1話「春一番!江戸の明星」では、将軍就任で江戸にやってきた吉宗に早くもライバル心をむき出し。92年に放送された「暴れん坊将軍IV スペシャル 隠された壱千万両 家康の埋蔵金を追え!」では、代々将軍家に伝わる家康公の黄金像にまつわる埋蔵金を巡って、くノ一を使った宗春(中尾)による策略が描かれた。

 質素倹約を心がける吉宗に対し、キンキラないでたちの宗春。最後は吉宗の「成敗!」で一件落着し、宗春は「おのれ、吉宗」と怒り顔になるのだが、アイシャドーたっぷりのダーク&こってりメイクで気持ちいいほどの敵役ぶりだった。

 なお、私が個人的に「一番すごい中尾彬のメイク」と認定しているのは、堺正章(77 )が孫悟空を演じた「西遊記」(78年・日本テレビ)の第8話「悟空危うし!鱗青魔王の逆襲」で、「孫悟空!見忘れたか!!」と洞窟から現れた妖怪・鱗青魔王だ。顔が紺色で体を手のひらサイズのウロコに包まれた青大将の化身! よくぞやってくれました。

役者は七色の声を持つべし

 96年、筆者はNHK大河ドラマ「秀吉」で柴田勝家を演じる中尾に取材した。勝家も秀吉と対立する役だ。

 こういう役を演じる時のコツは?と聞くと「声だね」と即答。「役者は役に応じて七色の声を持たないといけない。悪役でも地位の高い悪人から小悪党では全然違うし、コメディに近いものでは少し甲高い声も出す」と話すと、「おい」という一言をドスのきいた低音から順に高く発してみせてくれた。

 確かに、田村正和(1943~2021)主演「若さま侍捕物帳」(78年・テレ朝)では、抜け荷疑惑の渡海屋で働く若者・与平(中尾)が主の後妻(池波志乃 )に迫られ事件に巻き込まれるエピソードがあり、あの低音ではなく不安気な弱さを感じさせる声で演技している。このドラマでは「血しぶきあげて、あの世に行きやがれ!」とべらんめえ調の啖呵で事件を解決する若様(田村)とともに、「言うことを聞くんだよ」などと命令口調の池波が中尾を追いかける場面もあって面白い。中尾と池波が結婚したのは、この年である。

「時代劇は若い人にもどんどん見てもらって盛り上げないと。これだけ作り込める世界は他にないんだから」と時代劇への思いも語ってくれた。

 作り込める時代劇の面白さを伝え続けてくれたことに、時代劇ファンとして深く感謝したい。

ペリー荻野(ぺりー・おぎの)
1962年生まれ。コラムニスト。時代劇研究家として知られ、時代劇主題歌オムニバスCD「ちょんまげ天国」をプロデュースし、「チョンマゲ愛好女子部」部長を務める。著書に「ちょんまげだけが人生さ」(NHK出版)、共著に「このマゲがスゴい!! マゲ女的時代劇ベスト100」(講談社)、「テレビの荒野を歩いた人たち」(新潮社)など多数。

デイリー新潮編集部

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