時代劇ではギラギラ俳優だった…中尾彬さんが時代劇研究家に語った役者の極意とは

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 ペリー荻野が出会った時代劇の100人。第26回は晩年にはバラエティ番組でも活躍したの中尾彬(1942~2024)だ。

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 現代劇、時代劇、バラエティと幅広く活躍した俳優の中尾彬さんが5月に亡くなった。年々渋みが増して、ますます面白い存在感を出していただけに、とても残念だ。

61年、武蔵野美術大学油絵科に入学。同年、日活ニューフェイスに合格する。翌年、日活を退社、大学を中退してパリに留学。帰国後、劇団民藝で活動した後にフリーとなり、後年は“ねじねじ”で知られる独自ファッションでも知られるようになる。本格的なデビュー作は今も日本のお洒落映画の金字塔のように語られる加賀まりこ主演の映画「月曜日のユカ」(64年)だった。アートな背景を持つ俳優だった。

 時代劇にはフジテレビ黎明期の名作「三匹の侍」(63~64年)などにゲスト出演しているが、強烈な印象を残したのは「必殺仕掛人」(72年・朝日放送)の第7話「ひとでなし消します」だった。御家人・伊庭頼之丞(中尾)は入り婿になった途端、放蕩三昧、豪商の娘とねんごろになり、邪魔な妻・お此(河村有紀)を殺そうとする。あの大きな目をギラギラさせる中尾の頼之丞は、悪い悪い。これじゃあ仕掛人に仕掛けられても仕方がないと思わせる色悪(いろあく)ぶりだった。このとき中尾彬、30歳。必殺シリーズには「必殺仕置人」(73年)、「必殺仕置屋稼業」(75年)など縁が続く。

 その後、真田広之(63)主演の映画「伊賀忍法帖」(82年)で、主君の妻(渡辺典子=58)に執着し、極悪幻術遣い果心居士(かしんこじ/成田三樹夫=1935~1990)に操られる好色侍・松永弾正を演じるなど、時代劇では欠かせないギラギラ俳優となっていく。

異色の金田一耕助として主演

 75年、異色の主演映画が公開される。横溝正史(1902~1981)原作の「本陣殺人事件」だ。ここで中尾はジーンズを履いた金田一耕助として登場する。かつて本陣だった旧家で婚礼があった晩、花嫁花婿が日本刀で惨殺され、巧妙に仕組まれた密室トリックに名探偵・金田一耕助が挑むというストーリーだ。

  この映画のポイントはATG(日本アート・シアター・ギルド)によって製作されたこと。ATGは芸術映画の上映を目的として61年 に発足した会社で、その製作ルールは独特だ。予算1000万円をATGと制作会社が折半し、権利も分け合う。低予算でも自由な発想で映画が作れると、寺山修司(1935~1983)が監督した「書を捨てよ、町へ出よう」など個性的な作品が次々と発表された。

「本陣殺人事件」も低予算のため設定を現代にし、撮影を制作会社・映像京都の代表・西岡善信氏(1922~2019)の奈良県明日香村の実家で敢行している。本物の旧家は、自由に使える撮影セット兼スタッフの合宿所にもなった。筆者は西岡氏から「中尾さん、花婿役の田村高廣さん(1928~2006)、出演者もスタッフもよくまとまっていました」「原作の横溝さんが中尾さんの金田一を気に行ってくれるか心配でしたが、とても気に入ってくれていました」と聞いた。ジーンズの金田一は関係者一族の娘・鈴子(高沢順子=69)に優しく語り掛け、残酷な真相に憂いの表情を見せる。テレビドラマではあまり見られない中尾彬が、ここにいた。

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