「尿入りペットボトル」を量産する人間の心理とは? 恥ずかし過ぎる学生時代を振り返る(中川淳一郎)

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「なんでオレはあんなバカなことをやっていたのだ」と思うことがあります。毎朝起きて最初の小便をする度に思い出してしまうのですが、大学3、4年生の時、研究室で頻繁に鍋パーティーやら餃子パーティーを夜やっていたんです。

 他のゼミの学生も合わせて10人ほどで19時から夜中の1時ぐらいまでどんちゃん騒ぎ。1929年に建てられた登録有形文化財の建物の2階に研究室はあったのですが、夜になると人はおらず廊下は電気が消える。便所は1階にあるのですが、部屋を出ると暗くて怖いし、冬は寒く夏は暑い。

 そこで私は飲み会で空いた一升瓶に小便をしていました。大量のビールを飲むと小便はほぼ透明。しかし、それほど大量に飲んでいない場合は色の濃い小便が瓶にたまっていきます。パーティーの度に同じ瓶に小便していったのですが、早く捨てなければ、と思うものの、何やら怪しげな粉が沈殿していく様を見るのが楽しくなり、ついつい足し続けてしまったのです。

 こんなバカなことをするヤツは他にいないだろう、と検索してみたところ、遺品整理・特殊清掃・不用品回収の「TRUSTCORP」という会社のHPに「尿入りペットボトルの心理と処理方法!放置・不法投棄」という記事がありました。

 尿入りペットボトルは「ションペット」と言うらしく、ペットボトルに尿をためることは「異常」としつつ、その心理と理由を四つ挙げています。(1)セルフネグレクト、(2)ゴミ屋敷になってトイレが使えなくなった、(3)夜にトイレに行くのが怖い、(4)トイレに行くのが面倒くさい。これに加え、女性もションペットを作るとのことで、理由をこう解説します。

〈初めは抵抗があるものの、一度ペットボトルで用を足せば、その快感やゲーム感覚にハマってしまうケースも少なくありません。女性の場合は、こぼれやすいといったデメリットがありますが、逆にスリルを感じて楽しいという人もいます〉

 さらに、ションペットの不法投棄で逮捕された例も紹介されているのですが、私の他にもやるヤツはいたんだ! 私は(3)と(4)が当てはまります。

 件(くだん)のパーティーに参加する他の者も小便を一升瓶に入れるようになっていったのですが、ある時、自身の人生がいかにくだらないか、と厭世的な演説を開始した男が「オレなんて生きてる価値がない!」と言い、近くにあった一升瓶を持ちやにわに内容物を飲んだ。

「あ、それオレの……」と現在は大学教授になった男が制止するも間に合わず、この男は「なんだこりゃ!」と言い、先ほどまでの厭世的演説について「なんかどうでもよくなったわガハハハ!」とその後は楽しく酒を飲んだのでした。

 そして私はといえば、この小便瓶を研究室の隅に隠していたのですが、卒業後1年目の秋、教授から電話がありました。

「お前、小便を一升瓶にためてただろ!」

「えっ、先生、なんで分かったんですか!」

「今、大掃除をしてるが、こんなバカなことやるのはお前しかいない! このアホが!」

 と大目玉をくらったのでした。その次に先生に会った時、平身低頭謝罪したのは言うまでもありません。

中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)
1973(昭和48)年東京都生まれ。ネットニュース編集者。博報堂で企業のPR業務に携わり、2001年に退社。雑誌のライター、「TVブロス」編集者等を経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『ウェブでメシを食うということ』等。

まんきつ
1975(昭和50)年埼玉県生まれ。日本大学藝術学部卒。ブログ「まんしゅうきつこのオリモノわんだーらんど」で注目を浴び、漫画家、イラストレーターとして活躍。著書に『アル中ワンダーランド』(扶桑社)『ハルモヤさん』(新潮社)など。

週刊新潮 2024年6月6日号掲載

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