「音楽が置き去りにされている感覚があった」 音楽プロデューサー「亀田誠治」を突き動かした“無料フェス”を主催する理由

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 音楽プロデューサーで、ベーシストの亀田誠治氏が実行委員長を務める音楽イベント「日比谷音楽祭 2024」が、6月8日と9日に東京の日比谷公園と東京ミッドタウン日比谷で開催される。今年で6度目の開催を迎えた音楽祭は、世代を超えて誰もが楽しめる「フリーでボーダーレス」をコンセプトに掲げており、来場者の参加費は無料。企業からの協賛金や自治体からの助成金、クラウドファンディングによってその運営は成り立っている。音楽祭を通じて「音楽を楽しむ文化を生活に根付かせたい」と意気込む亀田誠治氏に、フェスの開催に至った理由や今後の展望を語ってもらった。【白鳥純一/ライター】

NY「セントラルパーク」で目にした光景

 亀田氏が日比谷音楽祭を開催するきっかけになったのは、音楽と真摯に向き合う中で感じた「音楽が置き去りにされているような感覚」だったという。

「15年ぐらい前から、音楽にさまざまな特典や付加価値を付けてユーザーに届ける傾向が強くなりました。コンサートの終盤に席を立ち、グッズ売り場を目掛けて一目散に走るファンの様子を見ていると、アーティストのパフォーマンスや演奏している楽曲の存在感が薄くなってしまっているように感じたんです」

 その悶々とした亀田氏の思いに一筋の光が射したのは、10年ほど前に訪れたニューヨークで見た光景だった。

「セントラルパークを散歩していたら、風に乗って音楽が聴こえてきて、その方向に歩いていくと多くの人が並ぶ長い行列ができていたんです。“これは何ですか?”と列に並ぶ方に尋ねてみると、フリーコンサートが行われていると教えてくれて。セントラルパークでは様々なジャンルのコンサートが開かれ、そのほとんどが並べば無料で楽しめる。老若男女、たくさんの人々が公園に集まって音楽を楽しんでいる様子を目にして、“音楽を聴く文化”の素晴らしさを改めて実感しました。また、生活に音楽を根付かせていくことで、既存のビジネスモデルを維持することに精一杯になっている日本の音楽業界に風穴を開けられるのではないかと思うようになりました」

「もう1年だけ時間をください」

 セントラルパークのフリーコンサートに感銘を受けた亀田氏の下に、「日比谷公園で行われる音楽フェスを主催してほしい」との依頼が舞い込んだのは、2016年のことだった。

「企業からの協賛金と行政からの補助金、民間からのクラウドファンディングで資金を集めてフリーコンサートを開催し、日本の首都・東京から音楽文化を支えていく新たな仕組みを作ろうと思ってオファーを快諾したんですけど……。実は先方が、大規模な収益を上げていく音楽イベントを目指していることがわかって。先方とは意見が大きく食い違っていました」

 話し合いが並行線を辿るなか、ただ時間だけが過ぎていき、2018年に開催される予定だった第1回の音楽祭は結局、中止に。残念ながらプロジェクトを離れていった人も多くいたというが、亀田氏は「無料の音楽祭を開催できるように立て直すので、もう1年だけ時間をください」と懇願。自らも音楽祭の開催のため企業に協賛金の依頼に出向いたという。

「ちょうどその頃、SDGsやCSRが注目を集めていたこともあって、音楽文化を育むことが豊かで過ごしやすい社会づくりにつながることをアピールした」という亀田氏のプレゼンテーションは多くの企業の共感を呼び、2019年の第1回開催時には、1億円以上の協賛金が集まったという。

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