中学受験で不本意な結果に…リベンジ塾通いに燃えていた高1女子は、なぜ不登校になったのか
中学受験が終わり、入学した中学でがんばる子どもを見て、ほっと胸をなでおろしている親も多いだろう。中学受験で第1志望に合格できるのは4人に1人だから、今度は大学受験でリベンジしようと、また塾通いを始めている子も多いと聞く。だが、すでに中学受験で「睡眠負債」がたまっている状態だ。ここで無理をすれば不登校になる可能性があると、専門家は指摘する。【小山美香/教育ライター】
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睡眠負債をさらに増やす「リベンジ塾通い」
ユキさんは中学受験のため、小学校高学年のときから塾の自習室で夜10時まで勉強するのが日課で、睡眠時間を削って勉強してきた。
だが、中学受験では滑り止め校にしか合格できず、「大学受験でリベンジしたい」と入学と同時にまた塾に通い始めた。運動部に入り、学校行事の実行委員も務め、塾にも通い、塾が終わって帰宅すると夜11時過ぎという毎日だった。
異変が起きたのは、高1のときだ。
ユキさんは「当時の担任は『こんな問題も解けないと東大へ行けないぞ』と厳しく叱責する先生で、クラスメートが怒られているのを聞いただけで緊張を強いられました。すると、しだいに朝起きられなくなり、学校に行けなくなりました」と話す。
不登校になると今度は1日10~13時間も寝続け、起きても、ぼうっとして勉強する気力がなくなってしまった。
熊本大学医学部名誉教授で30年以上子どもの睡眠障害の臨床・研究にあたる三池輝久医師は、「これは『睡眠・覚醒相後退障害』という睡眠障害で、不登校の原因の一つです」と指摘する。
「睡眠不足は蓄積するので、中学受験をした子どもはすでに睡眠負債がたまっています。中高生になると勉強や部活、スマホやゲームといったスケジュールも加わり、ますます睡眠負債は蓄積されます。それが限界を超えると、今度は急に10時間以上眠って起きられない『睡眠・覚醒相後退障害』になってしまうのです」
7つのきっかけで不登校になる恐れ
三池医師は「夜ふかしや遅寝のがんばりを続けると、体内時計のリズムに狂いが生じ、生体リズムを混乱させる不健康の土台が作られます。そこへ、きっかけが1つでも2つでもあると、睡眠障害を起こす恐れがあるのです」という。
そのきっかけとは、〈1〉重圧となる責任(部活動のキャプテンや代表など)、〈2〉受験勉強、連日の稽古、試合前の部活動のハードな練習、〈3〉家庭環境の変化(両親の離婚や転職など)、〈4〉人間関係のトラブル(いじめ、友人・家族・教師との関係)、〈5〉スマホ、ゲームなどの過剰使用、〈6〉感染症での発熱、消耗、〈7〉交通事故や地震など自然災害、の7つだ。
「不登校の多くは、元気だけど学校に行かないのではなく、行きたいけど朝起きられない体の異常が起きている状態です」
不登校の子を検査すると、発汗反応や眼底検査で異常がみられ、糖代謝が低下、ホルモン分泌や深部体温が異常をきたし、脳代謝異常で認知機能や記憶力も低下しているという。
「小学5・6年生は8.5~9時間、中学生は7~8時間の睡眠が必要です。無理をさせ続けると、不登校の原因となる睡眠障害になる可能性があります。これを治すには長い時間が必要で、進路を左右する10代後半をそれに充てなければならないのです」
ユキさんはその後、「コロナで欠席扱いにならなかったので高校は卒業できましたが、勉強できない状況は続き、結局現役のときは、大学受験は全滅。1浪してなんとか大学に通っています」という。
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