ロシア経済好調の裏に軍需産業 欧州全域で「戦時経済」が進めば、誰も求めていない「軍事衝突」が起こりうる

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「戦時経済」に戻るフランス

 ロシアの動きについて、西側諸国は「戦時経済体制は非効率であり、ロシアの継戦能力は長続きしない」と高を括ってきたが、足元の戦況はまったく違ってきている。

 ロシア軍は5月26日「2022年2月の侵攻以降、ウクライナでの占領地は最大規模になった」ことを明らかにした。ロシアとウクライナの間の砲撃能力の差が日に日に拡大しており、西側諸国からの支援も「焼け石に水」との声が出ているほどだ。

 このため、欧州諸国も戦時経済化へと舵を切らざるを得ない状況になりつつある。フランスのマクロン大統領は4月24日、爆薬・軍用燃料製造などのユーレンコ社が建設する火薬工場の起工式に出席し、「我々は『戦時経済』に戻ると決めた」と宣言した。

 マクロン氏はロシアのウクライナ侵攻後、第1次世界大戦などの総動員体制を指すこの言葉をたびたび口にするようになっている。欧州全体の武器の生産能力が圧倒的に不足していることが露呈したからだ。

 一方、多くの軍需企業は、巨額の投資が必要な生産ライン拡大に慎重な姿勢を崩しておらず、マクロン氏のいらだちは募るばかりだ。

軍需産業を強化する欧州

 ドイツ政府は今年、GDP比2%に相当する717億ユーロ(約12兆円)の防衛予算を計上したが、自国の武器の生産能力が不足しているのはフランスと同じだ。

 マクロン氏はドイツのショルツ首相と5月28日、ドイツの首都ベルリンで会談し、欧州の軍需産業を強化することで合意した。共同声明で「国境を越えた(軍需産業の)大きな統合を目指す」と明記し、武器の生産能力の抜本的な強化をアピールしている。

 今年3月に北大西洋条約機構(NATO)に加盟したスウェーデンでは、政府の方針に対応するため、軍需企業大手のサーブ社が「来年までに国内の武器生産能力を2021年比で4倍にする」との野心的な目標を掲げている(5月31日付日本経済新聞)。

 哲学者のニーチェは「怪物と戦う者は、その際、自分が怪物にならぬように気をつけたほうがよい」と警告を発したが、欧州諸国はその罠に陥りつつある感がある。

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