性暴力被害で心の傷を負った妻を救うつもりが… 44歳夫はメンタルクリニックで不倫相手と出会って「価値観がいきなりぶっ壊れた」

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「僕自身の価値観がいきなりぶっ壊れた」

 自分は自分を生きているのか。妻を救いたい一心で、自分を殺して妻に寄り添ってきた。それで自分は幸せだったのか。

「自分の人生を生きるなんてことは一般的には当たり前のことかもしれない。でも正直言って、僕は天地がひっくり返るほどびっくりしたんです。凝り固まっていた僕自身の価値観がいきなりぶっ壊れた」

 誰かを救おうと自分を犠牲にするのは正しいことではなかったのかもしれない。だってオレは心から幸せと思えたときがないのだから。そんな簡単なことに気づかなかったと、彼は頭がこんがらがった。だから利香子さんに話を聞いてもらった。彼女はいちいち、わかるわかると頷きながら聞いてくれた。そういえば、こうやってじっくり人に話を聞いてもらうのは医師以外では利香子さんが初めてだと彼は気づいた。

「心を閉ざしていたのは妻ではなく、自分だったのかもしれない。そう思ったら、自分の人生観も過去も、何もかも否定したくなった。すべて壊して一からやり直したい。その思いに取りつかれました」

 しかもそれが恋心と一緒になったのだからやっかいだった。彼は利香子さんに恋をしたのだ。そして利香子さんも彼に恋をした。お互いになぜか「ようやく巡り会えた」という気持ちでいっぱいになった。

妻にすべてを打ち明けて

 秋になったころには利香子さんのアパートに週半分は泊まるようになっていた。当然、美緒さんは不審に思う。

「妻にどうしたのと言われ、堰を切ったように、これまでの思いと今の思いをしゃべり続けてしまったんです。美緒は途中で『もういい。出てって』と。そのとき、美緒を救おうと思っていた自分を裏切ったと気づいたんですが、利香子への思いは止められなかった」

 身の回りのものを持って家を出て利香子さんのアパートに転がり込んだ。それから半年、今も同じ状態が続いている。ただ、今年になってから利香子さんの勧めと息子の意向もあって、週末は自宅に戻って息子と時間を過ごすようにしている。

「美緒は妙にしっかりしています。つい先日は、『私、あなたに助けられてきたのだから、今度はあなたが誰かに助けてもらう番なのかもね』なんてさらりと言うんです。美緒に見放されるのかもしれない。それは怖い。でも利香子と別れるのは半身をもぎとられるようにつらい。正直言って、今、どうしたらいいかわからないんです。自分の信念に基づいて生きてきたのに、どうしてこんなことになっているのか……」

 思いもかけないことが起こるのが人生だ。急転直下した彼の生きる道は、果たしてこの先、どこに続いていくのだろうか。

 前編【妻が口にした何気ない一言に、かつて抱いた“殺意”が蘇った…44歳夫の告白 「僕はずっと普通に生きてきたと言ってきたけど、本当はそうじゃなかった」】からのつづき

亀山早苗(かめやま・さなえ)
フリーライター。男女関係、特に不倫について20年以上取材を続け、『不倫の恋で苦しむ男たち』『夫の不倫で苦しむ妻たち』『人はなぜ不倫をするのか』『復讐手帖─愛が狂気に変わるとき─』など著書多数。

デイリー新潮編集部

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