性暴力被害で心の傷を負った妻を救うつもりが… 44歳夫はメンタルクリニックで不倫相手と出会って「価値観がいきなりぶっ壊れた」
前編【妻が口にした何気ない一言に、かつて抱いた“殺意”が蘇った…44歳夫の告白 「僕はずっと普通に生きてきたと言ってきたけど、本当はそうじゃなかった」】からのつづき
奥園傑さん(44歳・仮名=以下同)は、つい最近、妻の美緒さんから自宅を追い出されたという。勤務先で知り合った彼女は、高校時代に性暴力の被害にあい、心に傷を抱えていた。「守るのは自分だ」と身体の関係もないまま34歳のときに結婚した傑さんもまた、父と祖父の「暴力」をめぐる幼い頃の記憶を封じ込めていた。美緒さんのひと言でそれを思い出した彼は、彼女と手を取り合っていきたいと思ったという。
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【前編を読む】妻が口にした何気ない一言に、かつて抱いた“殺意”が蘇った…4歳夫の告白 「僕はずっと普通に生きてきたと言ってきたけど、本当はそうじゃなかった」
「結婚して彼女はアルバイトを辞めました。だけど半年もたたないうちに夜にバイトをするようになった。バイトが悪いとは思わないけど、僕とは完全にすれ違いの生活になる。もっとふたりの生活を充実させようよと言うと、『あなたは家事をやらせるために私と結婚したの? 私の自由を奪わないって約束したじゃない』って。確かに言いましたよ、結婚後も彼女を束縛しない、彼女の自由を尊重するって。でも家庭をもったんだから、ふたりともが満足する生活を作っていきたいじゃないですか。じゃあ、美緒が理想とする家庭はどういうものなのかと尋ねると、何も答えない。彼女の心の闇は、僕が思っているよりずっと深いのかもしれない。そう思いました」
最初から結婚生活はうまくいかなかったようだ。だが彼自身は「うまくいかない」とは思っていなかった。自分が彼女を救う。自分が彼女と「楽しい家庭」を作ると決めたのだ。自分を裏切れない。
心を開かない妻
彼は急に目を伏せ、小声でこうつぶやいた。
「美緒は別に“変な人”ではないんですよ。僕が美緒に、普通の妻を求めすぎたのかもしれない。僕の思う結婚と、美緒の思う結婚は違っていた。美緒をカウンセリングに連れていったこともあるんです。かつてのレイプ事件が彼女の心を重くしているのなら、なんとか脱却できる方法もあるのではないかと思って。だけど彼女は心を開こうとはしなかった。『私を変えようと思っているなら、私はいつでも離婚するから』と逆ギレされました。僕は変えたいと思っているわけではない、きみにもっと楽に生きてほしいだけだと言ったけど伝わらなかった」
そういえば……と彼は遠い目をした。結婚するとき、親には自分から報告するから、わざわざ行く必要はないと美緒さんは言った。それではすまないと彼は抵抗したが、美緒さんは実家に連れていこうとはしなかった。
「だから電話番号だけ聞き出して、彼女の実家に電話をしたんです。おかあさんが出て、『結婚? いいんですか、あんな娘と』と。自己紹介をしようとしたら『いいです。娘が元気でいれば誰と結婚しようとかまわないので』って。おかあさんが娘をやっかい者だと思っているのか、あるいは広い気持ちでそう言ったのか判断できなかった。ただ、家族との問題は他人事ではなかったので、むしろ生まれ育った家庭と縁を切ることも必要かもしれないと自分の都合のいいように解釈しました」
どんな過去があろうと、結婚した目の前の人と一緒に手を携えていこうという気持ちがあれば、結婚生活に問題はないはず。彼はそう判断した。そして美緒さんを束縛しないように心がけた。
「食費と雑費で妻には10万円渡していました。でも彼女は食事は作らない。10万円は彼女の小遣いとなりました。飲みに行ったりはしていたみたいですが、男関係はなかったと思う。彼女はその時点で、僕とキスひとつしていなかった。僕が近づくと体がこわばるのがわかったから無理強いはしませんでした」
帰宅すると、彼女が缶ビールを片手にソファに寝転んでテレビを見ていることもよくあった。ご飯食べたのと聞くと食べていないという。彼は文句ひとつ言わず、手早く夕食を作った。美緒さんは食べると「おいしい」と言って笑顔を見せた。たまにそういうことがあるから、美緒さんに対して本気で怒ることもできなかった。いつか自分の気持ちをわかってくれるかもしれないと期待を寄せた。
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