叡王戦第4局 藤井八冠と伊藤七段の対局には「男同士、同い年と遊んでいるような楽しさを感じる」

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大盤解説場で笑わせた藤井

 勝った藤井は「常に距離感が難しい将棋でした。『7五馬』(104手目)と引いて、見慣れない形で判断がつかなかったですけど、馬が手厚くなんとかなるかと思いました」と振り返った。その言葉通り、この対局は藤井が「7五」に据えていた馬が最後まで非常によく効き、伊藤玉を威圧していた。

 伊藤は「もう少し熱戦にできそうだったが、バランスを崩してしまった」と残念そうだった。

 この第4局は「崖っぷちの藤井が踏ん張るか」「新叡王誕生で藤井が七冠に後退か」と注目される対局で、大盤解説の参加希望者が殺到して十数分で締め切られたという。その大盤解説場には石田九段の弟子である門倉五段や千葉県出身の三枚堂達也七段(30)ら若手の強豪が立ち、女流棋士を目指す高校生を交えて軽妙なトークで解説をしていた。

 大盤解説場に登場した藤井は「『持将棋(じしょうぎ)』にならなければ次が最終局なので……」と話してお客さんを笑わせた。棋王戦での伊藤との第1局が引分けの持将棋になっていたことを引き合いにしたのだ。

 第5局の先手後手は第1局と同じように振り駒で決める。

体力に差

 将棋映像プロデユーサーで指導棋士四段の田中誠さん(42)に第4局の感想を聞いた。田中さんは元棋聖の田中寅彦九段(67)の長男である。

 指導棋士とは、奨励会の初段以上の腕があり、日本将棋連盟で正式に認定され、将棋の指導や普及などを行う。以前は「準棋士」と呼ばれていた。12歳から奨励会入りしていた田中さんは、以前、「囲碁・将棋チャンネル」の社員として働き、王将戦と銀河戦の運営や「ABEMA将棋チャンネル」などの製作を手掛け、将棋のCMやニュースの制作、将棋漫画の監修や将棋ゲームの制作をしている。

「伊藤先生は2、3局目はすごい体力で逆転したのに、今回はその体力がなかった。考え続ける集中力を維持する体力ですね。藤井先生が圧倒的に有利になったと思った瞬間に伊藤先生が粘りを見せて一瞬難しくなったけど、先に使った体力の分、伊藤先生の集中が切れてしまった。力尽きてしまい、逆転する前にミスしたのが伊藤先生の敗因でした」(田中さん、以下同)

 ミスの例として「9三歩成」でと金を作った手順が早すぎたことなどを挙げた。

「一手の手順で狂うのが将棋の怖いところ。刀の切っ先での斬り合いでしたが、ミスをすかさず咎めた藤井先生はさすが。実は藤井先生は必勝形から粘られて嫌そうな表情をしていた。名人戦から3日で体力もしんどい中、粘られて大変だったはず。でも、我慢比べで伊藤先生が先に体力が尽きたんです」

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