叡王戦第4局 藤井八冠と伊藤七段の対局には「男同士、同い年と遊んでいるような楽しさを感じる」
将棋の藤井聡太八冠(21)が同学年ライバルの挑戦者・伊藤匠七段(21)と対する注目の大一番となった叡王戦五番勝負(主催・不二家)の第4局が、5月31日、千葉県柏市の「柏の葉カンファレンスセンター」で行われた。【粟野仁雄/ジャーナリスト】
【写真】「崖っぷちの藤井が踏ん張るか」「新叡王誕生で藤井が七冠に後退か」注目された叡王戦第4局
35分で50手も進む
「温度を1度上げてください」
藤井は対局中の午前の間に2度ほど時計係に室温調整を頼んでいた。前日の検分で駒や将棋盤とともに室温も確認するが、その時は背広姿。本番の着物だと寒かったのだろうか。タイトル戦で初めてのカド番となり、いつもより神経質になっていたわけではないだろうが、藤井が対局中に室温調整を2度も頼むのは珍しい。
立会人の石田和雄九段(77)は名人戦の順位戦A級に通算4期在籍した実力者で、勝又清和七段(55)、佐々木勇気八段(29)、門倉啓太五段(37)、高見泰地七段(30)など一線級の弟子を育てた名伯楽だ。石田九段の師は板谷四郎九段(1913~1995)。若くして亡くなった板谷進九段(1940~1988)の父親で、その弟子が藤井の師である杉本昌隆八段(55)だ。
先手は伊藤。互いに飛車先の歩を進める「相掛かり」から角交換、「腰掛け銀」模様となったが、示しあわせたかのようにものすごい速さでパチパチと手が進む。なんと50手までがたった35分だった。2日制の名人戦や竜王戦なら1日目の封じ手になっておかしくない手数だ。
伊藤の追い上げもあったが…
叡王戦の持ち時間は4時間と短い。午後からはペースダウンし、後手の藤井が9筋の歩を突いて先に仕掛けた。激しい攻め合いとなり、先に伊藤が時間を使い果たして1分将棋に追い込まれる。午後6時2分、藤井の132手、「9六歩」を見た伊藤が投了した。
その歩の4マス下の「9九」には伊藤の玉がいた。伊藤は「穴熊」の陣形だったが、名人戦の第5局で藤井が見せたような金銀3枚を使った堅牢なものではなく、少しスカスカな印象の陣形だった。それが悪かったわけではないだろうが、最後には潰されてしまった。
全体的には後手の藤井が主導権を取ったような印象だった。対局の途中、石田九段が記者控室にひょこっと現れて「藤井さんが優勢でしたが、今かなり伊藤七段が追い上げてきていますね。(勝率)4割5分くらいかな」などと話していたが、伊藤の粘りもそのあたりまでだったようだ。
藤井が勝ち、対戦成績を2勝2敗のタイにした。これで「藤井が八冠を守るか」「伊藤叡王の誕生か」という叡王戦の行方は、6月20日に山梨県甲府市の「常盤ホテル」で行われる第5局に持ち越された。
ちなみに、藤井がタイトル戦で最終局までもつれたのは、2022年に豊島将之九段(34)から叡王を奪取した時だけである。
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