低栄養への落とし穴…「おばけタンパク」とは? 認知症予防に「豚汁」が役立つ理由

ドクター新潮 ライフ

  • ブックマーク

「おいしくなければ食事ではない」

 それではどんな食事をすれば、中高年は低栄養にならずに済むのでしょうか。その対策を考えるためには、改めて根本的な問いについて思いを巡らせてみる必要があります。

 そもそも人間にとって食事とは何でしょうか。体にとって良いものを食べる、あるいは塩分や糖分を控えてヘルシーなメニューに努める。これもまた、いずれも正しく、間違ってはいません。

 でも、私はもっと大切なことがあると考えています。食事とはおいしいものであり、おいしくなければ食事ではない。これが、人間にとって食事とは何かという問いに対する、管理栄養士である私の答えです。

 例えば“おばけタンパク”状態になってしまっていた先の女性に、「ご飯を食べてもいいんですよ」とアドバイスしたところ、「ご飯、本当は食べたかったんです。納豆もお刺身も、やっぱり白米と一緒に食べるとおいしいですよね」と、涙ながらに語っていました。

 私たちが食べているものは、エサでもなければ栄養摂取のみを目的にした材料でもない。おいしいから食べる。おいしさそっちのけで、どの栄養素を何グラム取って……というのでは食事ではありません。何をどう食べるか以前に、食べられる気力と体力を保つ、つまりおいしく頂こうという食欲を維持することこそが、低栄養を避ける一番の近道なのです。

「お肉が食べにくくなった」は要注意

 食べるとは体内でエネルギーを消費する活動であり体力が必要です。きちんと食べられるということ自体が健康の証しであるわけですが、食が細くなって食べられない、すなわち低栄養に陥るサインは、例えば市販のお弁当を2回に分けないと食べられないといったところに表れます。また、食べる機能の低下は、嚥下よりも先に、かんで喉の奥に送るまでの動作である摂食に出てくるので、堅いおせんべいが食べられなくなった、お肉が食べにくくなったというのも要注意です。

 食欲を維持する工夫としては、まずは朝起きたら口をすすぐ。口の中がネバネバしていたら、気持ちが悪くておいしいものを食べたい、食べようという気持ちが湧いてきませんよね。

 その後に、例えば熱いお茶を飲んだり、細かく切って凍らせておいたパイナップルなどのフルーツを少しだけ口に入れる。そうすると、その刺激で消化管が動き出し、蠕動(ぜんどう)運動が始まって食欲が出てきます。牛乳でもいいですし、オレンジジュースでも構いません。大事なのは口腔から胃にかけて刺激を与えてあげることです。

次ページ:間食で補うという割り切り

前へ 1 2 3 4 5 次へ

[3/6ページ]

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。