刑事に恋なんかしていなくても同じことになったと思うんですよ…国賠訴訟で明かされた西山美香さんを誘導した取調べ官の“テクニック”【湖東記念病院事件】

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 2003年5月、湖東記念病院(滋賀県東近江市)で当時72歳の男性患者の人工呼吸器のチューブを外して殺害したとして懲役刑を受け、12年間、服役した元看護助手の西山美香さん(44)。冤罪を訴え続け、20年3月に大津地裁で再審無罪が確定した。違法な捜査で長期間拘束されたなどして、国(大津地検)と県(滋賀県警)を相手取って起こした国家賠償訴訟が大津地裁で続く。【粟野仁雄/ジャーナリスト】

「今でも大好き」って言ったら…

 西山さんは取り調べを担当した滋賀県警の山本誠刑事(当時)の甘い言葉を信用し、好意を抱いてしまった。山本刑事はそれを巧みに利用して虚偽の自白調書を作った。

「『今でも大好きなんですよ』って言ったら、皆さん、どうしますか。ネットなんかすごい盛り上がるでしょうね」

 5月23日に開かれた公判後の会見で、現在の山本刑事への思いを記者に問われた西山さんの口から飛び出した言葉だ。彼女は出所後、記者会見を重ねるたびに堂々と自分の思いを発言するようになり、今回の見事な切り返しには感動すら覚えた。

 西山さんは20年12月、国と滋賀県に約4300万円の損害賠償を求め、大津地裁に提訴した。「こんな冤罪被害者は私だけにしてほしい。そのためにはもっと真相が明らかにならなくては」と訴える。

「改心させようという気持ちだった」

 5月22日の第11回口頭弁論は、西山さんが「恋してしまった」という山本刑事が証人として出廷する大きなヤマ場となった。注目度は高く、傍聴券の抽選倍率は3倍にもなった。

 弁護士から取り調べの状況を問われた山本刑事は「西山さんの態度から、供述の内容は、ある程度、信用できると思った」「恋愛感情を持たれていたことは認識していなかった」などと述べた。

 さらに「西山さんが1時間以上も犯行を否認したにもかかわらず、調書を作成しなかったのはなぜか」と問われると、山本刑事は「否認は一時的なものだと考え、調書を作成しなかった」と答えた。

 西山さん自身も直接質問し、「あなたは何度も『俺がおまえの不安を取り除いてやる』と言いましたよね」と問うたところ、山本刑事は「取調官として改心させようという気持ちだった」と答えた。

 弁護士に「西山さんが患者を殺害していると思っているのですか」と問われると、山本刑事は「再審無罪の判決が出ております。組織の一員として、取り調べ官として捜査した。私がお答えすることはできません」とはぐらかした。

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