今いくよ・くるよさんの「所得隠し」をスクープした記者 訃報に際し思い出す吉本興業への“気が進まない取材”
「二人を休ませた方がええですかね」
2005年3月24日大阪社会面のトップに掲載された記事は僕の手によるものだ。他紙には出ていないのでスクープだと言えるのだろう。以下のような内容だった。
「人気漫才コンビの『今いくよ・くるよ』の今いくよさん、今くるよさんが、大阪国税局の税務調査を受け、平成15年12月期までの3年間で、約7200万円の申告漏れを指摘されていたことが24日、分かった。うち約2000万円は所得隠しと認定された。国税局は2人に重加算税を含め、約2800万円を追徴課税(更正処分)した。2人は全額を納付したという」
どうやら経費の計上が国税に否認され、架空経費の水増し請求と認定されたもののようだった。
当初は吉本興業に取材すると若い女性の声で「確かに税務調査は受けましたけど、額とかはNGなんですよ~」と軽い調子で言われた。だが、「うちはテレビ局ではないから、芸人さんの出演バーターとかも関係ないですからね」などと食い下がっていたら、最後は常務さんが対応してくれることになった。
応接室で会った陽気な感じの常務さんは税務調査の話になると、一転して声を潜め、「二人を番組とか自粛させて、休ませた方がええですかね」と言い出した。
「いえいえ、滅相もない。僕にそんなことを決める権限はありませんよ。第一、取材しておいていうのも何ですが、金額も1億円もいっていないわけだし、追徴課税といってもただの行政処分ですし」
この時、吉本興業はかなり正直に答えてくれた。
いじめを忘れさせてくれた恩人
実はこの取材は気が進まなかった。中学の頃、思春期にありがちな、いわゆるいじめを受けていた僕は、帰宅して観るテレビだけが娯楽だった。お笑い番組を観ていると、嫌なことを皆、忘れることができた。
「今いくよ・くるよ」は、自分たちの太った容姿や痩せた格好を笑いにしていたが、決して他人を貶すことはなかった。僕は彼女たちの漫才を見て、涙を流して転げ回って笑っていた。今にして思えば、あの漫才ブームのころ、彼ら上方の芸人さんやドリフターズやひょうきん族メンバーらのお笑いを見て、浮世の憂いを洗い流していた中学生は決して少なくなかったと思う。お笑いは、笑顔は人を救う。
正直、聞いたときは、なぜダーティーなイメージが強い、あの芸人さんではなかったのだろう、と思った。「どやさ」と言いながら、腹をポンポンと叩いて大うけしていた、くるよ師匠が、産経が取材に来た、と聞いて心穏やかでいられるはずがない。オロオロしている姿が目に浮かんでしまって、なんだか恩を仇で返している気になってしまう。
「常務さん、社会面に載るとは思いますが、そんなに大事にはならないと思います。お二人は普段通りにふるまっていただければ良いんですからね」
取材を申し込んで困らせておきながら、呆れた言い草だと我ながら思った。ただ、自分がファンだからという理由で報じないわけにはいかない。つくづく因果な商売だ。
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