“なまはげの聖地”を走る「JR男鹿線」で“無賃乗車”横行疑惑 知られざる不正の温床とは

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キセルを捕まえても割に合わない

 では、JR東日本は無賃乗車の対策をどこまで真剣に進めているのだろうか。A氏は、「大々的に無賃乗車はやめてくださいとは言えませんが、ワンマン列車の乗り方の指導が行われているのは、見たことがあります。実際にそのための勤務が設けられ、何人か無人駅に派遣されていました」と話す。

 しかし、そうした努力もむなしく、不正乗車はなくならないようだ。筆者ですら、何度も不正乗車が疑われる乗客を目撃したことがあるし、地方の無人駅に、東京の山手線の駅の初乗り運賃の切符が落ちているのを見たことは何度もある。鉄道会社も認識しているはずだが、面倒くさいから見て見ぬふりをしている職員も多いのでは……とA氏に聞くと、「正直なところ、その通りです」とのことだ。

「地方路線で日頃からキセルをする人は、乗車区間はせいぜい200円とか、単価が低いんですよ。仮に不正乗車を目撃したとして、その200円のために全力でダッシュして捕まえたり、列車を何分も遅らせたりするのは割に合わないじゃないですか。国鉄時代採用の職員はキセルに対して厳しい人が多い印象ですが、若い職員にはそこまで躍起になる必要はあるのか、という風潮が蔓延していました」

キセルを積極的に捕まえる車掌もいる

 その一方で、使命感をもって仕事をする職員がいるのも事実だ。こちらも既にJR東日本を退職したというB氏は、若者にしては珍しく集札をしっかりしたり、駅員時代も営業規則を常日頃から読み返してクレーム客を撃退したりしていたという。A氏は、不正乗車を絶対に許さなかったという車掌B氏の武勇伝をこう話す。

「男鹿線の途中駅で、女子高生がすり抜けて行こうとしたため、階段を上って駅の外まで追いかけたそうです。普通列車でも何度も検札をして、キセルを何人も捕まえていました。年々ワンマン化が進み、無賃乗車が横行するような制度へ変えていく会社のやり方が嫌だと常日頃から話していました」

 B氏は、キセルをしていた女子高生を叱り、何度も泣かせたことがあるという。B氏の行動は、一部の人からが「常軌を逸している」といわれるかもしれない。しかし、こうした抑止力みたいな人がいなければ、キセルが横行するのも当然だろう。B氏は“バリバリの鉄道オタク”であり、愛する鉄道で不正乗車が行われている実態を許すことができなかったようだ。

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